15年にわたる制作会社運営の知見を、4つのトピックごとにまとめたコンテンツ『走り続ける制作会社4社の現在地』を公開しています。
Kinstaでは、数百社の制作会社と提携しており、インフラの限界に直面した現場や、創業2年目に下した決断が5年目に積み重なって影響を及ぼす様子などを、これまで数多く見てきました。深夜3時のサーバーダウンや、クライアントへの説明に追われる状況、そしてKinstaへの移行につながった課題など、さまざまな現場の声にも触れてきました。そうした経験を通じて、制作会社のスケールにおける技術的な側面について深く理解しています。
一方で、私たちが直接目にする機会が少ないのが、ビジネス面での意思決定です。どのクライアントを引き受けるか、いつ採用に踏み切るか、どのタイミングで「ノー」と言うか。あるいは、最大のクライアントが買収され、収益の3分の1が一気に失われたときにどう対応するか。そうした判断の積み重ねが、制作会社の成長を左右します。
この側面が重要なのは、ビジネスの判断力が、そのまま制作会社の持続的な成長につながるからです。そうした判断を積み重ねてきた制作会社こそが、Kinstaにとって長く伴走できるパートナーになります。また、その経験は、私たちの支援の仕組みやパートナー制度に参加する他の制作会社にとっても、大きなヒントや学びとなります。
そこで今回、4名の制作会社経営者にご協力いただき、どのようにビジネスを築いてきたのかについて、台本なしの率直なインタビューを行いました。各トピックについて、四者四様の見解をショート動画でご覧いただけます。
AIの活用方法から、もしやり直せるなら避けたい失敗や判断、強みの見つけ方、そして今後の展望まで、幅広いテーマを取り上げています。
この記事では、インタビューを行った4社について、そしてコンテンツ全体から得られる洞察についてご紹介します。
Built Mighty
概要:WooCommerce特化エージェンシー、従業員18名、シアトル拠点
Jonny Martin氏は2009年、オンラインで商品を販売する事業者としてBuilt Mightyを創業。その後、店舗の運営よりも「構築」に関心があることに気づき、ビジネスの方向性を制作会社へと転換しました。
16年が経った現在、同社はWooCommerceに特化し、カスタムプラグインの開発や複雑なシステム連携、さらには技術的難易度が高く、他社が手を引くようなプロジェクトも手がけています。「私たちのビジネスが成功している理由は、『人』だと思います。Excelだけで運営している制作会社にも出会ったことがありますが、適した人材がいれば、それでも十分に良い仕事はできるものです」
Built Mightyが人材を採用する際は、履歴書を受け取ってから数日以内に候補者に有償のテストプロジェクトを依頼します。プロジェクトを成功させた候補者は、実際の業務に携わる前に、架空のクライアントとのプロジェクトを通じて研修を受け、適性がなければ、その段階で全員がそれを把握できる仕組みになっています。
「かつては『採用は慎重に、解雇は迅速に』という考え方が主流でしたが、もう通用しないと思っています。今は採用も解雇も迅速に行うことが重要です。働き始めて最初の1週間で得られる情報は、面接だけでは通常到底得られません」
Fixel
概要:サイバーセキュリティ・デザイン専門、従業員8名、創業15年
Vin Thomas氏は2010年にFixelを設立しました。最初の10年間は、開発者1名との2名体制でしたが、約5年前から意図的に規模拡大を開始し、現在は8名で33社の継続契約クライアントを抱えています。
この少数精鋭の体制は、戦略的に選択したものでした。創業初期のクライアントであったサイバーセキュリティスタートアップのDistil Networksが買収された際、業界各所に分散したマーケティングチームが、Fixelにも継続して仕事を依頼するように。その結果、3〜4件のプロジェクトが、同社の強みとなる紹介ベースの案件へと広がっていきました。
しかし、成長を抑えることにもリスクは伴います。Fixelはかつて、収益の3分の1を占めていた主要クライアントを失ったことがあります。そのクライアントが数十億ドル規模の取引で買収されたことにより、契約が終了したのです。「あれは大きな打撃でした。特定のクライアントに依存しすぎてはいけないことを学びましたね。顧客基盤をしっかり築き、ある程度の余裕を持たせる必要があると考えるようになりました」
この経験は、同社にとって、プロジェクトの範囲やクライアントの集中度に対する考え方を大きく変えるきっかけとなりました。それは実際に問題が起きて初めて実感できる教訓だったといえます。
Pronto Marketing
概要:顧客数1,000社以上、バンコクとフィリピンの2拠点
Tim Kelsey氏がPronto Marketingを立ち上げるきっかけとなったのは、大学時代の友人であるDerek Brown氏の存在でした。同氏の父親はMicrosoftを退職後、タイに移住しており、同氏もタイの生活を気に入っていたことから、バンコクで制作会社を立ち上げます。約15年前、Kelsey氏は彼を手伝うためにタイへ。「両親には『東南アジアで1年くらい過ごしてくる』と話していたんですが、そのまま帰らなくなってしまって」
現在、Prontoはタイとフィリピンに拠点を構え、約80名のチームで1,000社以上のクライアントを抱えています。かつてはチームが140名規模まで拡大した時期もあり、エレベーターで同乗した相手が自分の会社の社員だと降りる階を見るまで気づかなかったこともありました。
「エレベーターに乗っても、その人が同じ会社のメンバーだと気づかないことがありました」その経験をきっかけに規模を見直し、自分たちの強みに集中する方針へと舵を切ることに。「限界は、実際に超えてみないと分からないものです」
もうひとつ、後になって強く実感したのが、価格設定の見直しの重要性でした。Prontoでは10年以上にわたり、既存クライアント向けの月額サポート料金を据え置いていました。値上げの案内を送る際には、解約が相次ぐことも覚悟していましたが、実際に不満を示したクライアントはわずか2社でした。「あれだけ長く先延ばしにしていたことを思うと、『どうしてもっと早くやらなかったのか』と少し後悔しましたね」
40Q
概要:エンタープライズ向けWordPress制作会社、ブエノスアイレス拠点
Eddie Wise氏は、ブエノスアイレスに拠点を置く制作会社40Qでグロース部門を率いています。同社はもともと、デザイン会社向けのホワイトラベル開発会社としてスタートしましたが、現在はエンタープライズ企業に直接サービスを提供する体制へと転換。カスタムのDAMシステムやLMSプラットフォーム、さらに納品までに1年を要するような複雑なWordPress統合案件などを手がけています。
同社は、一般的なWordPress制作会社の仕事との違いを明確に差別化しています。「私たちにとって、“WordPress開発者”と“WordPressエンジニア”はまったくの別物。基本的に、私たちが行っているのは単なるサイト制作ではなく、ソフトウェア開発です。アプリケーション開発の考え方を取り入れながら、高度に設計されたWordPressソリューションを構築しています」
この違いは、小規模な制作会社との競争ではなく、Adobe Experience ManagerやSitecoreのようなエンタープライズ向けプラットフォームと競合する場面で大きな意味を持ちます。そして同時に、営業プロセスそのものも大きく異なります。エンタープライズ案件は数週間で決まるものではありません。「契約に至るまでに、最長で1年ほどかけて案件を追い続けることもあります」
同氏がが提唱する制作会社経営のフレームワークは、提供サービス、ターゲットとなる顧客、そしてそれらを支える企業文化の三角形。この3つが揃ってはじめて、持続的な成長が実現できるといいます。
4社へのインタビューを通じた学び
今回インタビューを行った4社の規模、ビジネスモデル、立地、クライアント層は全く異なりますが、いくつかの共通点がありました。
「ノー」と言う判断こそが成長につながる──Martin氏は、無理をしてでも挑戦しようとする小売事業者の案件をあえて断っています。Thomas氏は、より大きな案件の提案があっても、自社のキャパシティを優先。Wise氏は、自分たちの実績に貢献しないプロジェクトには手を出さないといいます。Kelsey氏もまた、単に人員を増やすことを追い求めた結果、会社としての軸を見失いかけた経験がありました。
パートナーシップは、他のどのマーケティング施策よりも大きな成果を生み出す──Wise氏は、戦略的パートナーからのリードが、デジタルマーケティング全体の成果を上回ることもあると話します。Martin氏は、自社より規模の異なる制作会社との関係を築き、そのうちの一社が事業を終了した際には、長年の信頼関係を背景に50社のクライアントを引き継ぐことができました。こうした案件の流れは、広告からは生まれません。
AIは成果を拡張するものであり、単にスピードを上げるものではない──いずれの制作会社もワークフローにAIを取り入れていますが、思考の代替として使っているわけではありません。Thomas氏はコンテンツ戦略のために独自のClaudeプロジェクトを構築し、Wise氏はAIを活用したページビルダーを開発中です。Kelsey氏の会社でも業務プロセスの改善にAIを活用していますが、生成された内容はすべて人の目で必ず確認しています。共通しているのは、AIはあくまでツールであって、戦略そのものではないという認識です。
制作会社向けに、インフラのベストプラクティスをまとめたホワイトペーパーを制作することもできましたが、実際にKinstaが関わる制作会社が求めているのは、単に高速なサーバーではなく、いつ事業を拡大すべきか、どのクライアントを引き受けるべきか、そして持続可能な形でビジネスを築くにはどうすればいいのかといった意思決定に向き合うためのヒントでした。そのため、その背景にあるストーリーを含めて、全体像を捉えたいと考えました。
本シリーズでインタビューを行った4社はいずれも、Kinstaでクライアントサイトを運用しています。ある程度の規模になると、サーバーは単なるコストではなく、ビジネスを支える基盤になります。Fixelが最大のクライアントを失い、立て直しを迫られたとき、インフラが新たな不安要素になっていてはなりませんでした。また、Built Mightyがボットトラフィックによってクライアントのアクセスが10倍に急増したという通知を受けた際も、対応に数時間かける余裕はなく、数分以内に動く必要がありました。
Kinstaのエージェンシーパートナープログラムは、サーバー選択が事業の成果に直結する段階にある成長中の制作会社向けに設計されています。共同マーケティングの支援や案件の紹介を必要としている、そしてサイトダウンの影響が単なるコストではなく、クライアントとの信頼関係にも及ぶような制作会社をサポートするのが目的です。
本シリーズにご興味がりましたら、こちらよりご覧ください。