ほとんどの国では、政府のウェブサイトは障がいをもつ人を含め、誰にとってもアクセスしやすくなければなりません。欧州連合(EU)は、2025年6月に欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act、EAA)を施行します。この法令はオンラインショップを含むECサイトにも適用され、今日のグローバル化を考慮すれば、日本を拠点にするオンラインストアも無関係とは限りません。

欧州アクセシビリティ法の概要

EAAは指令2019/882であり、各加盟国がこの指令を国内法として適用するため、販売する製品サービスに影響を与えます。この法令は、2025年6月以降にEU諸国で施行されます。

具体的には、以下のようなビジネスに影響します。

  • 定期購読型のニュースサイト
  • 製品やサービスの販売
  • 広告プラットフォーム
  • 専門サービスの提供(医師、弁護士、不動産業者など)
  • エンターテイメントおよびメディアサービスの提供
  • 電気通信サービスの販売

上記に該当するウェブサイトで提供している場合は、注意が必要です。

中小企業は今すぐ対応する必要はないが、将来に向けて計画を立てておくのが賢明

既存のウェブサイトをアクセシビリティ対応にするのは、大掛かりな作業です。小規模な会社にとっては負担が大きすぎることもあり、中小企業であれば、2025年にEAAに準拠する必要はありません。

中小企業は、「従業員数が10人未満で、年間売上高または年間貸借対照表が200万ユーロ(2023年8月時点でおよそ3億1,450万円)を超えない企業」と定義されています。

これを踏まえ、数年後を見越した計画を立てておくのが得策です。また、アクセシビリティ対応のウェブサイトには、より多くのユーザーがアクセスできるようになるため、収益向上が期待できます。したがって、いずれにしてもアクセシビリティを導入する価値があります。

ウェブアクセシビリティとWCAG

ウェブサイトでサービスを提供する場合、アクセシビリティ対応が不可欠です。「アクセシビリティ」とは、できる限り多くのデバイスで、できる限り多くの人が利用できることを意味します。

では、サイトがウェブアクセシビリティを導入しているかどうかは、どのように判断すればいいのでしょうか。

答えは、ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドラインWCAG)に準拠しているかどうか。WCAGは、ウェブアクセシビリティに関してウェブサイトが満たすべき基準を示すガイドラインです。

WCAGにはA(ベーシック)、AA(世界標準)、AAA(専用ソフトウェア向け)の3つのレベルがあり、WCAG AAには、50の達成基準(AとAAを併せたもの)があります。

例えばガイドラインの1.2には、「時間依存メディアには代替コンテンツを提供すること」(公式サイトの日本語翻訳)とあります。

ガイドライン1.2の達成基準の一つ「1.2.2 キャプション(収録済)」には、以下のように記されています。

「同期したメディアに含まれているすべての収録済の音声コンテンツに対して、キャプションが提供されている。ただし、その同期したメディアがメディアによるテキストの代替であって、メディアによる代替であることが明確にラベル付けされている場合は除く」(公式サイトの日本語翻訳)

要約すると、動画の音声テキストにキャプションを挿入すれば、聴覚に不自由のある人でも動画の内容を理解できるということです。

この記事の執筆時点では、WCAGの最新バージョンは2.1で、バージョン2.2は間もなく発表される予定です。 WCAG 2.1 AAウェブアクセシビリティの現行基準になります。

欧州アクセシビリティ法に関するよくある質問

時間や手間をかけてEAAに準拠する価値はありますか?

EAAに準拠する価値は大いにあります。ウェブアクセシビリティの恩恵を受ける人は、全体の20%と推定されており、目や耳が不自由な人や弱視の人だけでなく、運動機能障がい、不安障がい、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の人にもメリットがあります。さらに、これらに該当する人でなくても、疲れていたり、集中力に欠ける日は誰にでもあるもの。アクセシビリティに対応したサイトは、そんなときでも利用しやすくなります。そして、このような人々は皆、お金を払って製品やサービスを購入してくれる可能性があります。

EAAはどのように施行されますか?

これについては、現時点で明らかになっていません。例えば、法令に違反すると罰金が科せられるのか、警告を受けるのか、それとも別な方法で罰せられるのかについては、各EU加盟国で決定されます。EU一般データ保護規則(GDPR)のようにアクセシビリティが扱われる可能性もあります。

会社の拠点がEU域外でも、EC諸国で商品を販売している場合は準拠が必要ですか?

EU諸国で製品やサービスを販売する場合は、アクセシビリティ対応が必要です。施行方法については、現時点で明らかになっていません。

EAAは新規サイトだけでなく、既存サイトにも適用されますか?

コンテンツを含め、ウェブサイトが更新されない場合は、EAAに準拠する必要はありません(ほとんどのサイトでは何らかの更新が行われるため、これに該当する可能性はかなり低いでしょう)。

EAAに準拠するには、どのようにすればいいですか?

大まかに、以下4つのステップに従ってみてください。

  1. ウェブサイトのアクセシビリティの現状を調査する。
  2. 社内のウェブ開発者がアクセシビリティに配慮した設計やコーディング方法を理解しているかを確認する。必要に応じて、外部でアクセシビリティ対応サービスを探す。
  3. ステップ1の結果に応じて、ウェブサイトを再設計、再構築する。
  4. アクセシビリティ対応コンテンツの作成に向けて、コンテンツチームのトレーニングを行う。

優れたアクセシビリティ対応サービスはどのように見極めればいいですか?

どの程度の経験があるのか、過去にどのようなサイトを作成してきたか、サイトの構築と設計に使用するガイドラインなどを確認してください。またその会社のウェブサイトにアクセシビリティに関する情報があるかどうかを調べることも大切です。

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  • Level Levelは、オランダはロッテルダムを拠点とするWordPress代行業者。完全オーダーメイドでアクセシビリティ対応のウェブサイトを制作している数少ない会社です。
  • The A11Y Collectiveは、ウェブアクセシビリティに関するオンライン学習プラットフォーム。ウェブプロジェクトの作成と保守管理に関わるすべての人におすすめです。

まとめ

2025年6月に、ECが欧州アクセシビリティ法(EAA)を施行します。この法令は、従業員10人以上、年間売上高または貸借対照表が200万ユーロ以上のオンラインショップを含むECサイトが対象です。

対象サイトは、ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン(WCAG)のレベルAAに準拠しなければなりません。また、EAAが施行される際には、このガイドラインの最新バージョンは2.2であることが予想されます(この記事の執筆時点では2.1)。

たとえ日本を拠点にビジネスを運営していても、EU加盟国のユーザーに製品やサービスを販売する場合は、このアクセシビリティ要件に準拠しなければなりません。

コンプライアンスを確保するために現在のウェブサイトのアクセシビリティを評価し、ウェブサイトチームはアクセシビリティについて学び、サイトの再設計または再構築を検討し、コンテンツチームではアクセシビリティ対応コンテンツを作成するために、トレーニングを行いましょう。

一大プロジェクトになりますが、ウェブアクセシビリティの導入によって、販売収益やアクセス数の向上など、多くのメリットを得ることができます。

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Rian Rietveld

デジタルアクセシビリティ担当、およびウェブ開発者。オランダ出身。アクセシビリティコンサルタントとしてLevel Levelに勤務しており、The A11Y Collectiveの講師でもある。Level Levelのチームや顧客にアクセシビリティに優れたプロジェクトの構築方法を指導し、世界各地のWordCampやカンファレンスで講演を行っている。