キャッシュは、頻繁にアクセスされるリソースを一時的なインメモリデータベース(キャッシュ)に保存するウェブ開発プロジェクトで重要な役割を果たします。その目的は、クライアントからのリクエストを高速化し、サーバーの負荷を軽減することです。ウェブ開発で最も人気のあるインメモリデータストレージソリューションに、RedisMemcachedの2つがあります。MemcachedとRedisのどちらのソリューションもオープンソースであり、強力なキャッシュ機能を持ち、スケーリングが容易な分散型アーキテクチャを採用しています。

それでは、RedisとMemcachedの長所、短所、一般的な使用例を詳しく見ていきましょう。

MemcachedとRedisの違い

表面的には、MemcachedとRedisは似ているように見えます。その絶大な人気とオープンソースの性質は、コミュニティの幅広いサポートを可能にしています。初期のキャッシュソリューションの1つとして、Memcachedは多くの組織で広く採用されています。Redisはそれに比べて新しいものですが、その豊富な機能を武器に高い人気を獲得しています。

どちらのソリューションも、一般的なプログラミング言語やフレームワークと簡単に統合できるクライアントライブラリやドライバを提供しています。また、ウェブ開発エコシステムの日々変化するニーズに対応するため、常に進化を続けています。

しかし、各ソリューションにはいくつかの顕著な違いがあるため、プロジェクトに適したものを選ぶことが重要です。主な特徴をいくつか見てみましょう。

Memcachedとは

Memcachedは、高性能な分散型メモリオブジェクトキャッシュシステムです。その主な目的は、頻繁にアクセスされるデータをキャッシュしてデータベースの負担を軽減し、より速い応答時間を可能にすることです。

Memcachedは、シンプルさとスピードに重点を置いています。Memcachedでは、複雑なクエリ言語を必要とせずにデータに簡単にアクセスできる、わかりやすいキーバリューデータモデルが採用されています。

Memcachedのロゴ
Memcachedのロゴ

Redisとは

Redisはキャッシュを支えるインメモリデータ構造ストアです。その機能は従来のキャッシュシステムを超え、様々なデータタイプをサポートしています。また、トランザクションをサポートしており、グループ化したコマンドが順次中断されることなく実行され、データ変更操作の一貫性も維持されます。Redisはパブリッシュ/サブスクライブメッセージングも可能で、アプリケーションコンポーネント間の拡張性の高い通信を実現します。

Redisのロゴ
Redisのロゴ

MemcachedとRedisの比較

MemcachedとRedisはどちらも使いやすく高性能ですが、プロジェクトに適したものを選ぶ際に考慮すべき重要な違いがあります。

データ構造とストレージ

Memcachedはシンプルなキーバリューストアで、文字列やオブジェクトのようなデータ型をサポートします。シンプルなキャッシュ機能と、キーベースの素早い検索を必要とするアプリケーションに向いています。そのため、高度なデータ操作テクニックを必要とする複雑なケースにはあまり適していません。

一方、Redisは文字列、ハッシュ、リスト、セット、ビットマップなど、より包括的なデータ構造をサポートしています。この柔軟性により、リアルタイム分析の実装や位置情報データの取得など、より複雑な用途に対応できます。

パフォーマンスとスケーラビリティ

Memcachedは、高いパフォーマンスと卓越した応答時間を優先します。また、垂直方向に拡張できるため、キャッシュプールにサーバーを追加してトラフィックやデータ負荷の増加に対応することが可能です。

Redisは、単純なキャッシュタスクで同等のパフォーマンスを発揮し、より高度な用途には追加の機能をもたらします。Redisでは非同期ノンブロッキングI/O操作が可能で、アプリケーションでより多くの同時タスクを処理できるようになります。この機能により、負荷の高いワークロードでのパフォーマンスが向上します。また、Redisは水平スケーリング用のクラスタもサポートしており、一部のノードに障害が発生しても処理を継続できます。

永続性と耐久性

Memcachedはインメモリのみで動作します。つまり、すべてのデータをRAMに保存し、永続性は組み込まれていません。このアプローチにより、最大限のパフォーマンスとデータへの低レイテンシアクセスが保証されます。しかし、Memcachedではシステム障害時に自動でデータが保存されません。とは言え、新しいバージョンでは再起動後のデータリカバリとDAXファイルシステムのマウントによる永続メモリがサポートされています。

対照的に、Redisでは2つの方法─スナップショットとAOF(Append-Only File)─でデータの永続性を確保可能です。スナップショットでは、キャッシュ内のデータのスナップショットを取得し、指定された期間後にデータをディスクに保存します。一方、AOFはより耐久性のある方法で、AOFにコマンドを追加していきます。スナップショットとは異なり、この方法ではシステム障害や再起動の際にデータを完全に再構築することができます。

機能と拡張性

Memcachedは、シンプルでわかりやすいキャッシュアプローチに重点を置いています。この点では優れていますが、データ型のサポートが限られているため、複雑なデータモデリングの要件を処理したり、特殊な操作を実行したりすることはできません。このような制約は、高度なデータ構造とデータ操作技術を必要とする状況におけるMemcachedの拡張性を制限します。

一方、Redisは基本的なキャッシュに加えて、トランザクション、パブリッシュ/サブスクライブメッセージング、Luaスクリプトなど、数多くの機能を誇ります。トランザクションでは、複数のコマンドを1つのアトミックな(原子性を確保した)ステップで自動で実行し、データの一貫性を確保することができます。Pub/Subメッセージにより、アプリケーションコンポーネント間のメッセージベースの通信が可能になります。この機能を使用して、リアルタイムメッセージング、チャットルーム、イベント駆動型アーキテクチャを実装できます。最後に、Luaスクリプトにより、複雑なデータ操作や変換のためのサーバーサイドスクリプトを実行可能です。

ウェブ開発におけるMemcachedとRedisの比較

MemcachedとRedisはいくつかのキャッシュ機能を共有していますが、それぞれ異なる用途をターゲットとした独自の機能を持っています。

Memcachedの使用例

Memcachedは以下のような用途に向いています。

  • ウェブアプリケーションを高速化するために単純なキャッシュを必要とするプロジェクト。クエリの結果など、頻繁にアクセスされるデータをメモリに保存することで、Memcachedはデータベースへのクエリを繰り返す必要性を減らし、その結果、応答時間が短縮され、アプリケーションのパフォーマンスが向上します。
  • シンプルなキーバリューストアと高速データアクセスが不可欠な、基本的な書き込み処理。
  • 構成設定、ユーザー認証トークン、静的コンテンツのキャッシュなど、簡単なキャッシュニーズと限られたデータタイプのプロジェクト。

Redisの使用例

Redisは次のような場合に有用です。

  • リスト、セット、ソートしたセットなどの複雑なデータ構造をサポートする高度なキャッシュ。Redisはより複雑なデータモデルのキャッシュを可能にし、データ型ごとに特化した操作を行います。
  • パブリッシュ/サブスクライブ、リアルタイム分析、検索を使用したメッセージブローカリング。Redisは「パブ/サブ」メッセージング機能をサポートしているため、メッセージブローカーやリアルタイム分析システムの実装に有用です。また、レイテンシが低いため、リアルタイム分析やストリーミングデータの処理にも適しています。さらに、RedisはRedisearchのような機能を通じて強力な検索、効率的なデータ索引付けを可能にします。
  • データの永続性と耐久性を必要とするプロジェクト。Redisは、スナップショットやAOFメカニズムによって、データをディスクに保存し、システム障害や再起動後にリカバリできるデータ永続メカニズムをオプションで提供しています。これらの機能により、Redisはユーザーセッション、トランザクションデータ、重要な情報のキャッシュなど、データの永続性を必要とするプロジェクトに向いています。

まとめ

ウェブ開発プロジェクトでMemcachedとRedisのどちらかを選択する場合、唯一無二の「ベスト」な選択肢はありません。それぞれのソリューションの長所と特徴を理解することが不可欠です。

MemcachedとRedisはどちらも非常に人気があり、よくサポートされているソリューションですが、それぞれ特徴が異なります。Memchachedはシンプルさと高いパフォーマンスを重視しているため、単純なキャッシュが必要なプロジェクトには有用です。しかし、より高度なキャッシュ機能やそれ以外の機能が必要な場合は、Redisの使用を検討すべきです。

KinstaのWordPress専用マネージドホスティングにはページキャッシュが組み込まれており、世界中のCloudflareサーバー上のエッジキャッシュによって強化されています。しかしながら、ECトランザクションやメンバー固有のコンテンツを表示する場合など、ページキャッシュが望ましくない場合には、サイト(またはサイトの一部)で永続オブジェクトキャッシュとしてRedisを使用することをお勧めします。

Steve Bonisteel Kinsta

Kinstaのテクニカルエディター。救急車や消防車を追いかける記者としてキャリアをスタート。1990年代後半からインターネット関連の技術情報を担当している。