ウェブサイトを運営している場合、自社のデータ、そしてユーザーや顧客のデータを保護する責任があります。パスワードは従来の第一の防御手段ですが、今日ではそれだけでは不十分です。
データ漏洩の報告が増え、プライバシーへの懸念が高まる中、セキュリティは多くの企業にとって差別化要因になっています。セキュリティを重視し強化することで、データ保護への真剣な取り組みがユーザーや顧客に伝わります。したがって、パスワードを超えた二段階認証(または二要素認証、通称2FAとも)の導入は、重要なセキュリティ戦略になります。
今回は二段階認証とは何か、そして導入すべき理由を掘り下げます。
二段階認証(2FA)を含む多要素認証(MFA)とは
多要素認証(MFA)は、ウェブサイト、アプリケーション、オンラインアカウントなどにアクセスする際に、2つ以上の認証要素を要求する仕組みです。多要素認証は、パスワードのようなユーザーが持っている情報だけでなく、別の通信チャネル、生体認証、あるいはセキュリティキーのような物理的なデバイスを介した応答も要求します。
この多要素認証で最も一般的な形態が二段階認証で、その名の通り、ログインには2つの異なる要素が必要になります。パスワードを入力し、以下のいずれかを使った確認を二段階で行うのが一般的です。
- SMSテキストで送信されるコード
- メールで送信されるコード
- 認証アプリケーションに表示されるコード
- 指紋や顔認識による生体認証
- USBベースのセキュリティキーのような物理的なデバイス
Kinstaでは、コントロールパネルのMyKinstaで二要素認証を有効にすると、2つ目の認証方法としてメールまたはGoogle Authenticator、Authyのような認証アプリケーションを使用することができます。
このようにセキュリティレイヤーを追加することで、万が一パスワードが漏洩した場合も、不正アクセスのリスクを減らすことができます。
パスワードのみでログインする危険性
コンピュータの黎明期以来、パスワードが主要な認証方法でしたが、以下のような理由からはパスワードは日々脆弱になっているのが現状です。
パスワードの再利用と脆弱な慣行
注意喚起が続く中、安全なパスワード管理を怠るユーザーは依然として多数存在します。
- 単純で推測可能なパスワードを使用する
- 複数のサイトで同じパスワードを再利用する
- パスワードを滅多に変更しない
- 安全でない場所にパスワードを書き留める
Ponemon Instituteによれば、ITセキュリティの担当者でさえ仕事と個人のアカウントで同じパスワードを使い回していることがあり、1つのアカウントが侵害され、ドミノ倒しのように被害が広がることがあります。
データ漏洩とクレデンシャルスタッフィング
大規模なデータ流出では、何十億もの機密情報が流出します。ハッカーは流出したユーザー名とパスワードの組み合わせを利用し、複数のウェブサイトにクレデンシャルスタッフィング攻撃を仕掛けています。
WordPressのセキュリティプラグイン開発を行うWordfenceの最新の脆弱性と脅威レポートによると、同社は2024年に550億回以上のパスワードクラックをブロックしています。このような攻撃は、クレデンシャルスタッフィングやブルートフォース攻撃、その他パスワードに関連する脆弱性を狙って、WordPressのログインページを標的にしています。
パスワードの脆弱性の実例
Dropboxの被害:2016年に4年前に情報漏洩が発生し、6800万件以上のユーザー認証情報が流出したことを明らかにした。盗まれた従業員のパスワードが原因で発生し、ハッカーはユーザーの認証情報を含むプロジェクト文書に簡単にアクセスすることができた。
WordPress VIP Goの被害:2019年、盗まれた認証情報を使用し管理アカウントへのアクセスを試みる大規模な攻撃を受ける。同社はすべてのパスワードのリセットを余儀なくされ、すべてのユーザーに二段階認証の実装を求めた。
サーバーコントロールパネルへの二段階認証の導入
WordPressサイトとサイトを稼働するサーバー環境のセキュリティは同等です。cPanel、Plesk、またはKinstaのMyKinstaなどのサーバーコントロールパネルは、すべてのサイトとドメインへのアクセスを提供するため、格好の標的となります。
コントロールパネルへのアクセス保護が重要な理由
攻撃者がコントロールパネルに侵入すると、以下のようなことを実行することができます。
- すべてのウェブサイトファイルへのアクセスと変更
- メールアカウントの作成または削除
- 悪意のあるスクリプトのインストール
- ウェブサイトにバックドアの設置
- 機密情報を含むデータベースのダウンロード
- 悪意のあるサイトへのドメインのリダイレクト
- フィッシングキャンペーンやマルウェアの配布
多くの大手サーバーは、特にcPanelアカウントに侵入する試みが増加していることを報告しています。Hostingerは、2022年、顧客のコントロールパネルへの不正アクセス試行が前年比で43%増加したことを記録しています。
サーバーアカウント組み込みの二段階認証
このような現状を受け、評価の高いサーバーの多くは、コントロールパネルに組み込みで二段階認証を提供しています。
- MyKinsta:メールまたはGoogle AuthenticatorやAuthyなどの認証アプリを介する二段階認証を提供
- cPanel:認証アプリとハードウェアセキュリティキーをサポートする二段階認証を提供
- Plesk:拡張機能を通じて二段階認証を提供

ご利用のサーバーが二要素認証などの多要素認証をサポートしていない場合は、セキュリティ上の懸念があります。速やかにサーバーの移行を検討することをおすすめします。
WordPress管理画面に二段階認証を実装するメリット
セキュリティプロトコルの一部として、二段階認証を採用する利点を4つご紹介します。
1. 不正アクセスのリスクを劇的に低減
二段階認証を使用すると、たとえ攻撃者にパスワードを知られても、アクセスするには2つ目の要素(通常はスマートフォン)が必要になります。マイクロソフトによれば、多要素認証によって保護されたアカウントは、自動化されている攻撃の99.9%をブロックすることができます。
2. フィッシング攻撃対策
多くの二段階認証は常に変更されるか、物理的に分離されているため、ユーザーを騙してパスワードを流出するフィッシング攻撃などの攻撃に耐性があります。
3. 業界標準への準拠
多くの業界では、機密情報を扱うシステムに対してより強力な認証を要求する規制があります。
- クレジットカードを扱うEC(電子商取引)サイトに対するPCI DSS
- 医療関連情報に対するHIPAA
- 適切なセキュリティ対策を要求するGDPRやその他のプライバシー規制
4. 顧客の信頼向上
サイトで二段階認証のような高度なセキュリティ対策を導入していることをアピールすることで、特にユーザーが個人情報を共有するオンラインストアや会員制サイトにおいて、信頼を築くのに役立ちます。
WordPressサイトに二段階認証を追加する方法
MyKinstaのようなコントロールパネルへのアクセスに二段階認証が重要であることは先に述べましたが、WordPressサイトへのアクセス、特に管理者へのアクセスも適切に保護することが重要です。
WordPressの場合、専用プラグインが多数あるため、簡単に二段階認証を導入することができます。おすすめのWordPress二要素認証プラグインと使用方法はこちらで詳しくご覧いただけますが、この記事でも、以下人気のプラグインをいくつかご紹介します。
1. Two-Factor
Two-Factorは、WordPress.orgチームによって開発・保守されている無料プラグインで、信頼できる選択肢です。
主な機能
- 複数の二段階認証をサポート(認証アプリ、メール、バックアップコード)
- 簡単なセットアップ
- 定期的な更新と互換性テストあり
- パフォーマンスへの影響は最小限
WordPressコアチームに支えられた、軽量で信頼性に優れたプラグインをお探しの方に最適です。
2. Wordfence Security
Wordfence Securityには、二段階認証を含む多くのセキュリティ機能が付属しています。
主な機能
- スマートフォンによるログイン(SMS経由の二段階認証)
- 時間ベースのワンタイムパスワード(TOTP)
- ファイアウォールやマルウェアスキャンを含むセキュリティツールとの統合
- 詳細なログイン試行ログ
包括的なセキュリティソリューションを利用しながら、二段階認証を導入したいサイトにおすすめです。
3. MiniOrange 2-Factor Authentication
MiniOrange 2-Factor Authenticationは、多数の認証方法を提供する機能豊富なプラグインです。
主な機能
- 複数の認証方法(Google Authenticator、SMS、メール、ハードウェアトークン)
- ユーザー役割ベースの二段階認証(管理者や編集者のみに要求するなど)
- ログイン後のカスタムリダイレクト
- 信頼できるデバイスの管理
複数の認証方法をサポートしながら、柔軟に二段階認証を導入したい場合におすすめです。
4. WP 2FA
WP 2FAは、ユーザーフレンドリーなプラグインで堅牢な二段階認証の導入に焦点が当てられています。
主な機能
- ユーザー役割を指定して二段階認証を強制
- 二段階認証セットアップの猶予期間
- メインの二段階認証が利用できない場合のバックアップ
- ホワイトラベル化(Web制作会社や開発者向け)
二段階認証の導入が不可欠なクライアントサイトや複数のユーザーで管理するWordPressサイトに適しています。
二段階認証のベストプラクティス
WordPressサイトに二段階認証を追加する際には、以下のベストプラクティスも考慮してください。
1. まずは管理者アカウントから
データが漏洩した場合のリスクが最も高いため、まずは管理者アカウントへの実装から始めてください。
2. 段階的な導入計画を立てる
複数のユーザーでサイトを管理している場合は、以下のような段階的な導入が必要になります。
- 今後のセキュリティ強化について共有する
- 明確なセットアップ方法を提供する
- 二段階認証の有効化に猶予期間を設けることを検討する
- ユーザー役割に応じて段階的に導入を義務化する
3. リカバリー手段を確保する
二段階認証の2つ目の要素が失われたり、利用できなくなったりした場合のバックアップコードや代替のリカバリー手段も忘れずに用意しましょう。
4. 徹底したテストを行う
二段階認証の導入を展開する前に、さまざまなデバイスやシナリオで実装をテストし、ユーザー体験に問題がないかを確認することも重要です。
5. プロセスを文書化する
以下のよう内容を説明するドキュメントを管理者とユーザーの両方に用意しましょう。
- 二段階認証の設定方法
- 認証デバイスへのアクセスを失った場合の対処方法
- 二段階認証に関する問題に遭遇した場合の連絡先
二段階認証に関する一般的な懸念と誤解
「導入が複雑そう」
最新の二段階認証ソリューションは非常に使いやすく、多くのユーザーが日常的に利用する銀行アプリやSNSアカウントを通じてその認証ステップにも慣れています。管理者の役割を持つユーザーのみに二段階認証を要求し、その他のユーザーには任意で有効化を促すということから始めることも可能です。
「ログイン時に問題が生じそう」
どのようなセキュリティ対策でも、ログインプロセスに多少の摩擦は生じますが、セキュリティ上のメリットが大きく上回ります。また、ほとんどの認証アプリは簡単に使用できます。
「私のサイトは小さいから大丈夫」
小規模なサイトは、このような考えからセキュリティ対策が甘いと予測され、格好の標的になっています。自動化されているボットは、サイトの規模を問わず、脆弱性を狙っています。
2023年のITRC Business Impact Reportによると、中小企業の73%が前年中にサイバー攻撃、データ漏洩、またはその両方を経験しています。
WordPressを超えたデジタルプレゼンス全体の保護
WordPressサイトを二段階認証で保護することは重要ですが、包括的なセキュリティアプローチには以下も含まれます。
可能な限りあらゆる場所に二要素認証を導入する
ウェブサイトに接続している以下のようなサービスにもできる限り二段階認証を導入してください。
- メールアカウント(特にWordPress管理用に使用するもの)
- FTP/SFTPアクセス
- データベース管理ツール
- CDNおよびパフォーマンス最適化サービス
- ドメインレジストラのアカウント
定期的なセキュリティ監査を行う
潜在的な脆弱性が悪用される前に特定し、対処するためには、定期的にセキュリティ監査を行うことが重要です。
従業員研修を行う
チームメンバー全員がセキュリティのベストプラクティスと適切な認証プロトコルに従うことの重要性を理解することも大切です。
まとめ
サーバーコントロールパネルとWordPressサイトに多要素認証を導入することは、最も効果的なセキュリティ対策の1つです。ちょっとした時間とリソースの投資で、一般的な攻撃からサイトを高確率で保護することができます。
WordPressはインターネット上で稼働するのウェブサイトの40%近くを支えているため、格好の標的になっています。WordPressの管理者アクセスやサーバーコントロールパネルに二段階認証を導入することで、リスクを大幅に削減し、自社と顧客のデータ保護への取り組みを示すことができます。
サイバーセキュリティの脅威が進化する中、二段階認証は「あると便利」な機能から、WordPressの本格的なセキュリティ戦略に欠かせない要素へと変化しています。
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