クラウドコンピューティングは、事業の成長とデジタル化に新たな可能性をもたらします。開発者は、社内にインフラを持つことなく、アプリケーションの構築、テスト、デプロイ、管理を行うことができるように。また、クラウドサービスがソフトウェア開発ライフサイクルに組み込まれるようになったことで、クラウド業界への期待もさらに高まり、より強力なサーバー、より厳重なセキュリティ、より高速なパフォーマンス、そしてより効率的なワークフローが求められています。

ところがその結果、技術の変化に合わせてプロジェクトを調整している間に、また新たなものが生まれているという状況に陥ることも。そこでこの記事では、十分な情報に基づいて組織で先を見越した正しい決断を下せるよう、クラウドコンピューティングの最新動向を見ていきます。

近年のクラウドコンピューティングのトレンド

Gartner社は、最近のとある記事で、2025年までに85%以上の企業がクラウドファーストの考え方を採用すると予測しています。既に現在、多くのソフトウェア開発に何らかの形でクラウドコンピューティングが取り入れられています。ソフトウェア開発業界は、急速な進化を続けており、業界の一線で活躍し続けるためには、クラウドの最新トレンドは常に把握しておかなければなりません。クラウドコンピューティングが目まぐるしく成長する中で、ソフトウェアエンジニア、ITマネージャー、DevOpsエンジニア、システム管理者が、一貫したシステムの最適化を行えれば、その恩恵を享受しながら、デジタル戦略をスムーズに推進することができます。

それでは、早速クラウドコンピューティングの最新情報を見ていきましょう。

ハイブリッドクラウドの導入傾向

ハイブリッドクラウドは、パブリッククラウドとプライベートクラウド両方の強みを活かし、複数の異なる環境にまたがり、用途に合わせて柔軟にITアーキテクチャを構築することができます。従来は、アプリケーションの要件に応じて、パブリックかプライベートのどちらかを選ばなければなりませんでした。パブリッククラウドには、データへの素早いアクセス、ほぼ制限のないスケーラビリティ、設備投資不要、そして従量制サービスなどのメリットがあります。一方で、アクセスや制御の監視が必要になる機密データを扱う場合には、プライベートクラウド一択と言えます。

ハイブリッドクラウドなら、パブリックとプライベートのいいとこ取りをしたソリューションを目的に応じて構築可能です。1つのプロバイダーに縛られることなく、両者の長所を取り入れることができます。また、複数のクラウドサービスを利用するマルチクラウドも良い選択肢です。

2020年には、アナリストが2025年までにクラウド導入の半分がハイブリッドになると予測(出典: Statista)
2020年には、アナリストが2025年までにクラウド導入の半分がハイブリッドになると予測(出典: Statista

クラウドの可能性を限界(エッジ)まで

エッジコンピューティングは、コンピューティングとストレージサービスがエンドユーザーの近くに配置される分散型コンピューティングインフラです。エンドユーザーから遠く離れたある一箇所でサービスを提供するのではなく、エンドユーザーのデバイスに近い場所でデータと処理が行われます。エッジとは、ユーザーエッジ(スマートフォンやIoT機器)や、ネットワークエッジなどと同じ「先端部分」を意味します。

エッジコンピューティングとクラウドコンピューティングは、一見異なるものに思われがちですが、この2つの技術は互いに補完し合う存在。今日のクラウドに残る課題を解決することができます。超高速でのデータ処理が必要なパフォーマンス重視のアプリケーションでは、エッジコンピューティングを活用してレイテンシの問題を解消することができます。また、膨大な量のデータを離れた場所にあるサーバーに転送する必要がないため、帯域幅の消費も抑えられます。

さらに、企業のデータセンターを特定の場所に置いて、その規制を遵守することができるため、プライバシーとコンプライアンスもサポート。

エッジコンピューティングは、今後クラウドコンピューティングと共存していくことが予想されます。すでにクラウド企業は、自社のクラウドサービスをエッジロケーションに拡張する方法の開発に力を注いでいます。

Kinstaでは、WordPressホスティングでCDNエッジキャッシュの機能を提供し、Cloudflareのグローバルネットワーク全260+箇所を利用して、サイトのデータをより訪問者に近づけています。

IDCによれば、エッジコンピューティングに対する世界支出は2025年までに2740億ドルに達する(出典: Statista)
IDCによれば、エッジコンピューティングに対する世界支出は2025年までに2740億ドルに達する(出典: Statista

AIでより高性能に

人工知能(AI)は、データエンジニアがクラウドに保存された膨大なデータを管理し、データの品質を維持するのに役立ちます。また、データのパターンを自律的に判断し、企業全体に適用できるインサイトを取得することも。このような機能を活用すれば、データ分析を次のレベルに引き上げることができます。AIを活用したクラウドコンピューティングは、インテリジェントな自動化を実現し、重要なワークフローを監視します。クラウドベンダーが提供する既存のAIサービスを活用することで、開発者はアプリケーションに音声、視覚、意思決定機能を導入可能です。多くのクラウドプラットフォームには、既存のAIソリューションが搭載されているため、最先端の機械学習(ML)の専門知識を持たずとも、MLアプリケーションを統合することができるようになっています。

AIプラットフォームには、高性能なサーバーが欠かせません。機械学習のタスクには高い処理能力が必要になるものの、社内のインフラが非常に高価になるのが難点。クラウドコンピューティングなら、強力なサーバーとコンピューティングインフラの両方が利用できるため、AIの費用対効果が上がります。これにより、MLエンジニアは、高価なハードウェアへの投資やAIインフラの維持などの課題から解放され、大規模な深層学習(ディープラーニング)モデルを構築に専念することができます。

人気が高まるサーバーレスコンピューティング

サーバーレスコンピューティングでは、サーバーインフラストラクチャの保守管理とサービスのプロビジョニングに必要な作業を委任することができます。つまり、クラウドプロバイダーサービスがインフラを管理し、リソースを割り当て、複雑なサーバークラスタをプロビジョニングすることになります。また、サーバー上の要件とアクティビティに応じて、無限に自動拡張が可能です。

この方法なら、開発者がサーバーを操作したり、デプロイ前に環境設定を行ったりする必要がなくなります。最低限のコードや関数をアップロードするだけで、エンドユーザーの近くにあるサーバーで実行されるため、待ち時間を短縮することができます。また、従来のサーバーとは異なり、使用していない時にも稼働します。さらに、ほとんどのクラウドサービスでは、ストレージやCPUに対して固定額を支払う代わりに、使用した分にだけ支払う従量制の価格設定を採用しています。

サーバーレスコンピューティングを導入することで、新機能の作成とデプロイプロセスの簡素化を行うことができます。さらに、ハードウェアに起因する故障のリスクの解消にも。その結果、サーバークラスタの保守などのオーバーヘッドの作業に費やす時間を削減し、中核となる事業に直結した付加価値と生産性の向上に集中することができるようになります。

セキュア・アクセス・サービス・エッジ(SASE)

企業がデジタルトランスフォーメーションを推進するのに対して、セキュリティの脅威は増加の一途をたどっています。したがって、情報セキュリティリスクを軽減するための戦略が不可欠です。システム管理者は、トップクラスのセキュリティ強化策を講じなければなりません。現在のクラウドシステムの弱点を探し、監視のワークフローを確立し、インサイトを得て、積極的に対策を実施することが極めて重要です。

クラウドセキュリティの強化に、セキュア・アクセス・サービス・エッジ(SASE)を導入する企業が増えています。SASEは、CASBFWaaS、Zero Trustなどのサービスをクラウド型のサービスモデルで提供することにより、ネットワークセキュリティを強化します。SASEのアーキテクチャによって、企業は安全なアクセス方法を採用することができ、場所を問わずユーザー認証を行えるようになります。

クラウド型のセキュリティサービスでは、セキュリティスタック全体が単一のサービスモデルに統合されるため、高い柔軟性と費用の削減につながります。また、IT部門で管理するポイントの数を最小限に抑えることができるため、作業効率も向上します。

2022年、40%近くの企業が在宅勤務のセキュリティ確保にSASEを利用している(出典: Statista)
2022年、40%近くの企業が在宅勤務のセキュリティ確保にSASEを利用している(出典: Statista

サステナビリティへの取り組み

持続可能性(サステナビリティ)に関心を持つ企業は、これまで以上に増えており、クラウドコンピューティングにも波及しています。ユーザーは、クラウドに対してセキュリティや俊敏性、その他のメリットだけでなく、持続可能性の高さも望んでいます。

サーバーレスコンピューティング、コンテナ化、災害復旧戦略などのクラウド機能は、持続可能なソフトウェア開発を実現します。サーバーレス機能を用いてコードを記述することで、仮想マシンよりもエネルギー消費率を下げることができます。また、アプリケーションをコンテナ化すると、コンテナにはハイパーバイザが不要になり、エネルギーコストの削減につながります。「グリーン・クラウドコンピューティング」を利用することで、費用を抑えるだけでなく、ソフトウェア開発において環境的そして社会的に責任を持つことができます。

企業としては、持続可能性に取り組むことで、経済的なインセンティブを得ることができます。Accentureのレポートによると、サステナビリティを考慮した対策を講じている企業は、そうでない企業に比べて4.7倍も高い収益を上げていることが明らかになっています。

クラウド企業は、この需要に対応するべく、二酸化炭素排出量の削減など、持続可能なソリューションをインフラに組み込み、運用に再生可能なエネルギー源を利用して、責任あるイノベーションを重要視しています。例えば、パブリッククラウドは、ローカルコンピューティングで発生する個々の二酸化炭素排出量を削減し、エネルギー消費量を減らしています。また、クラウドはサーバーの稼働率が高いことから、企業のデータセンターのインフラを自社で構築するよりも、費用対効果が高くなります。このような理由から、クラウドは、使用頻度の高いアプリケーションに理想的なプラットフォームです。

まとめ

クラウドコンピューティングを導入することで、ソフトウェア開発のワークフローを改善し、効率的で柔軟、なおかつ持続可能なインフラストラクチャを構築することができます。開発者は、事業の拡大や成功に向け、クラウドコンピューティングの最新動向に意識を向けながら、新たなアイデアや機能を試すことが重要です。

ハイブリッドクラウドを利用すると、パブリッククラウドとプライベートクラウドの優れた点を融合させることが可能です。そして、エッジコンピューティングを導入して、アプリケーションのパフォーマンスを向上させましょう。最先端のAIを使用して、データ駆動型の意思決定機能を取り入れたり、サーバーレスコンピューティングで、サービスの保守とプロビジョニングの処理を委任したりするのも賢い選択です。そして、環境に優しいより良い未来のために、サステナビリティを考慮したサービスを選んでみてください。

これからのクラウドコンピューティングは、事業の成長と革新に無限の可能性を生み出します。Kinstaのアプリケーションホスティングデータベースホスティングを利用して、世界を席巻する独自のクラウド型プロジェクトを構築しませんか?

Salman Ravoof

Salman Ravoof is a self-taught web developer, writer, creator, and a huge admirer of Free and Open Source Software (FOSS). Besides tech, he's excited by science, philosophy, photography, arts, cats, and food. Learn more about him on his website, and connect with Salman on Twitter.