人工知能(AI)と機械学習(ML)をWordPressサイトに導入することは、単に最新技術やトレンドを取り入れることを意味するだけでなく、機能を強化し、ユーザー体験、コンテンツの作成方法、ユーザーのコンテンツ消費方法を改善することができます。

WordPressサイトにAI機能を導入することには、以下のようなメリットがあります。

  • 予測テキストやチャットボットを使用して、ユーザーや顧客とのやり取りを強化
  • パーソナライズされたおすすめコンテンツを提供し、ユーザーエンゲージメントを高める
  • 画像タグ付けのようなタスクの自動化でオペレーションを合理化

このような機能の拡張により、効率、ユーザーの満足度、コンバージョン率を高めることができます。

今回は、WordPress APIを使用して、人工知能と機械学習をWordPressサイトで活用する方法をご紹介します。

WordPress APIを活用したAIの統合

WordPress APIは、WordPressサイトと外部アプリケーションの仲介役となり、シームレスな通信と対話を可能にします。APIは、投稿やユーザーなど WordPressサイトのさまざまな側面と対話するために定義済みエンドポイントを提供します。

特定の機能やデータを公開するために独自のAPIエンドポイントを作成することも可能ですが、サードパーティのサービスを統合するには、認証プロトコルの処理やデータの同期の管理などの操作が必要になる場合があります。

WordPress APIを使用すると、AIモデルとWordPressサイト間の双方向通信を確立することができます。それから独自のAPIエンドポイントを使用して、予測テキスト生成、パーソナライズされたおすすめコンテンツの表示、自動画像タグ付けのようなAI搭載機能をWordPressテーマやプラグインに統合します。

使用例1─予測テキスト生成

WordPressサイトでAIを活用する方法として、まず予測テキスト生成が挙げられます。AIによる予測テキスト生成は、自然言語処理(NLP)アルゴリズムを利用してテキストデータを分析し、文脈に基づいて次に続く単語やフレーズを予測します。

この機能はコンテンツ作成時に役立ち、記事の執筆中にテキストの候補が表示されることで作業が効率化されます。関連性のある言い回しから完全な文章まで、コンテンツライターがコピーライティングの作成に費やす時間が削減されます。

予測テキスト生成はバックエンドでも役立ち、ユーザーエクスペリエンスを改善します。チャットボットを導入し、予測テキスト生成の機能を統合すれば、ユーザーとのやり取りが合理化されます。

ユーザーがチャットボットに質問したり、ヘルプを求めたりすると、予測テキストのアルゴリズムが入力内容を迅速に分析し、適切な応答を生成。この機能により、チャットボットは高速かつ正確に文脈に沿った回答を提供することができるようになり、結果としてより満足度の高いユーザー体験につながります。

予測テキスト生成の実装方法

予測テキスト生成を実装する手順は、以下のようになります。

  1. 機械学習(ML)モデルをトレーニングする。独自のデータセット、またはOpenAIの提供するGPT-4や無料モデルのHugging Faceなどの既存のモデルを使用して、独自のモデルをトレーニングし、要件に基づいたカスタマイズと微調整を行うことができます(既存のモデルを使用する方が利便性は高く、高度な要件を持たない一般的なアプリケーションには十分な可能性あり)。ただし、商用モデルのトレーニングと微調整は、多額の投資と高い計算能力が必要になるため注意が必要です。
  2. WordPressサイトがMLモデルと通信するために使用するWordPress APIエンドポイントを作成する。プラグインを作成するか、テーマのfunctions.phpファイルを以下のように編集することで独自のエンドポイントを定義することができます。
    function create_predictive_text_endpoint()
    {
       register_rest_route(
           'predictive-text/v1',
           '/generate/',
           array(
               'methods' => 'POST',
               'callback' => 'generate_predictive_text',
           )
       );
    }
    
    function generate_predictive_text($data)
    {
       // リクエストから入力テキストを取得
       $input_text = $data['input_text'];
    
       // 入力に基づいて予測テキストを生成するために、機械学習モデルを呼び出す
       // 必ずgenerate_predictions関数を定義すること
       $predictive_text = generate_predictions($input_text);
    
       // 予測テキストをJSONレスポンスとして返す
       return rest_ensure_response($predictive_text);
    }
    
    add_action('rest_api_init', 'create_predictive_text_endpoint');

    rest_ensure_responseはWordPress組み込みの関数で、レスポンスがWordPress REST APIとの互換性のために適切にフォーマットされることを保証するものです。

  3. クライアント(サイトのフロントエンド)からこのAPIエンドポイントにアクセスし、予測テキスト生成機能を使用する。

使用例 2─コンテンツのパーソナライズ

機械学習(ML)を活用して、WordPressサイトで各ユーザーに応じたおすすめコンテンツを表示することもできます。コンテンツ配信を調整するには、ユーザーの行動や嗜好の分析が必要になり、アルゴリズムが閲覧履歴、インタラクションパターン、ユーザー属性などのデータを処理して、関連する記事、製品、メディアを提案します。

このようなユーザー体験のパーソナライゼーションは、ユーザーエンゲージメントを高め、サイトトラフィックの増加、滞在時間の延長、コンバージョン率の向上につながります。

例えば、食べ物からフィットネス、旅行まで様々なトピックを扱うライフスタイルブログをWordPressで運営しているとします。訪問者がブログのトップページにアクセスすると、レコメンドエンジンが閲覧された記事、シェアされた記事、「いいね!」された記事など、サイト上での過去のインタラクションや位置情報、閲覧パターンを分析し、パーソナライズされたおすすめコンテンツを表示します。

健康レシピや運動などのコンテンツを頻繁に閲覧しているユーザーには、筋トレや食事制限などのヒントを掲載した関連ページを提案することができます。

レコメンドエンジンの実装方法

AIを活用したレコメンドエンジンをWordPressサイトに組み込む方法は以下の通りです。

  1. サイト独自の要件に適したレコメンドエンジンを選択する。TensorFlowPyTorchのような技術や、Recombeeのような既存のソリューションで構築可能です。
  2. レコメンドエンジンと通信するための独自のWordPress APIエンドポイントを開発する。プラグインを作成するか、テーマのfunctions.phpファイルを以下のように編集します。
    function create_content_recommendation_endpoint()
    {
       register_rest_route(
           'content-recommendation/v1',
           '/recommend/',
           array(
               'methods' => 'POST',
               'callback' => 'generate_content_recommendations',
           )
       );
    }
    
    function generate_content_recommendations($data)
    {
       // リクエストからユーザーデータとインタラクションを取得
       $user_data = $data['user_data'];
    
       // ユーザーデータを使ってレコメンドエンジンを呼び出し、おすすめコンテンツを生成
       // 必ずgenerate_recommendations関数を定義すること
       $content_recommendations = generate_recommendations($user_data);
    
       // おすすめコンテンツをJSONレスポンスとして返す
       return rest_ensure_response($content_recommendations);
    }
    
    add_action('rest_api_init', 'create_content_recommendation_endpoint');

    このエンドポイントに送信されるリクエストのペイロードに、閲覧履歴、「いいね!」した記事、位置情報などのユーザーインタラクションを含めます。この情報により、レコメンドエンジンがユーザーの好みに基づいてパーソナライズされたコンテンツを生成します。

使用例3─自動画像タグ付け

自動画像タグ付けは、機械学習のアルゴリズムを使用して、メディアライブラリ内の画像を自動的に分析し、分類する機能です。アルゴリズムが画像内のオブジェクトを識別し、オブジェクト認識、視覚パターン、配色に基づいて関連するタグやカテゴリーを割り当てます。

これにより、特定の基準に基づいた画像の検索と整理が簡素化されます。WordPressメディアライブラリの文脈では、ビジュアルコンテンツの検索性、整理性、アクセシビリティが高まります。

例えば、WordPressで旅行ブログを運営し、世界各地の美しい写真を掲載した記事を定期的に公開しているとします。メディアライブラリに写真をアップロードすると、自動画像タグ付けシステムがコンピュータビジョン(CV)アルゴリズムを用いて各画像の内容を分析し、関連するタグを生成します。

例えば、ビーチの写真をアップロードすれば、「海」「ビーチ」「夕陽」「浜辺」などのタグが自動的に付与されます。

この機能により、画像にその都度自分でタグを付ける手間を省くことができます。さらに、このシステムは画像に迅速かつ一貫したタグ付けを行うため、訪問者は特定のキーワードを検索して、関連する記事や画像を簡単に見つけることができます。

自動画像タグ付けシステムの実装方法

AIを活用した画像タグ付け機能をWordPressサイトに導入するには、以下の手順に従ってください。

  1. 特定のデータに応じた画像タグ付けモデルをトレーニングするか、Google CloudのVision APIMicrosoft AzureのAI VisionAmazon Rekognition ImageなどのAIプラットフォームが提供する既存のモデルを利用する。
  2. プラグインを作成するか、テーマのfunctions.phpファイルを編集して、モデルと対話するためのエンドポイントを作成。アップロードした画像をこのエンドポイントに送信することで、タグが生成されます。
    function create_image_tagging_endpoint()
    {
       register_rest_route(
           'image-tagging/v1',
           '/tag/',
           array(
               'methods' => 'POST',
               'callback' => 'generate_image_tags',
           )
       );
    }
    
    function generate_image_tags($data)
    {
       // リクエストからアップロードされた画像を取得
       $uploaded_image = $data['image'];
    
       // アップロードされた画像に基づいてタグを生成するために、画像タグ付けモデルを呼び出す
       // 必ずgenerate_tags関数を定義すること
       $image_tags = generate_tags($uploaded_image);
    
       // 画像タグをJSONレスポンスとして返す
       return rest_ensure_response($image_tags);
    }
    
    add_action('rest_api_init', 'create_image_tagging_endpoint');

適切で正確な画像タグを生成するモデルを実装できるよう、以下の点も考慮してください。

  • 多様で代表的なデータセットでトレーニングされた質の高い画像タグ付けモデルを使用する
  • 特定の画像コレクションで画像タグ付けモデルを微調整して、精度と関連性を改善する
  • 生成された画像タグを洗練させてノイズや無関係なタグを排除するため、フィルタリングや順位付けなどの後処理技術を実装する
  • 画像タグ付けモデルを定期的に更新して再トレーニングを行い、進化するコンテンツやユーザーの嗜好に適応させる

課題と注意事項

機械学習(ML)の技術をWordPressサイトで活用することには、数々のメリットがありますが、以下のような課題や注意点もあります。

  • データプライバシー:サイト所有者は、一般データ保護規則(GDPR)のようなデータ保護規制を遵守しなければなりません。特にGDPRはEU市民の個人情報の収集、処理、保存に厳しい要件を課しています。データを収集する前にユーザーから明示的な同意を得たり、データの完全性と機密性を保護するための対策を講じる必要があります。
  • モデルの精度:精度と性能に優れたモデルを実装するには、入念なトレーニング、検証、最適化が必要になります。正確な予測と信頼性の高い機能を確保するため、モデルのパフォーマンスを継続的に監視し、改善してください。
  • コンピューティングリソース:AIおよびMLモデルは、トレーニング、推論、メンテナンスに多大なコンピューティングリソースを消費します。WordPressサイトにAIを活用した機能を導入する際、特に独自のMLモデルをホスティングする場合は、スケーラビリティとリソース要件を考慮する必要があります。

まとめ

人工知能(AI)と機械学習(ML)は、WordPressサイトの機能を劇的に拡張する可能性を秘めています。これらの最新技術を導入することで、より魅力的かつ効率的なユーザー体験を構築し、より高いエンゲージメントとコンバージョンを促進することができます。

AIとMLを活用することで、WordPress開発者はサイトの可能性を押し広げ、よりスマートでレスポンシブなサイトを提供することが可能になります。

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WordPressサイトへのAIおよびMLの導入について、以下のコメント欄でご意見をお聞かせください。

Jeremy Holcombe Kinsta

Content & Marketing Editor at Kinsta, WordPress Web Developer, and Content Writer. Outside of all things WordPress, I enjoy the beach, golf, and movies. I also have tall people problems ;).