スタートアップ企業の創設者の方にとって、様々な保険を調査することは─会社を起業することや顧客を増やすことと比べると─最優先事項ではないかもしれません。調べてみたことがある方は、スタートアップ企業に適切な事業保険費用の正確な見積額を探すのに、苦戦しているのではないでしょうか。
ネット上の多くの保険関連のコンテンツは保険会社自身による記事か、そのスポンサーによるものです。レンタルサーバーに関する正直なレビューを探すのと同じくらい難しいでしょう。先入観のない契約や費用を見つけるのは大変困難です。保険は営業が盛んに行われる業界です─それらの情報が不明瞭になるどころか、ただあなたの情報だけ「収集されて」しまうかもしれません。
そこで今回は、包括的な費用についてのガイドをご用意しました。事業に必要となり得る保険の種類を全て網羅しています。
今回の記事では、総合賠償責任保険などの基本的な保険契約から、サイバー保険などのより複雑なものまでご紹介します。
スタートアップ企業の保険費用はどのくらい?
スタートアップ企業の保険費用は年額500ドル(約5〜6万円)程度の少額で済む場合もあれば、数万ドル(数百万円)に及ぶこともあります。ともすると「範囲が広すぎ」だとお思いでしょう─ごもっともです。
多くのスタートアップ企業の場合、保険費用はそれほど高額になることはないでしょう。例えば、Bufferは独自に財務関連の情報を開示しているスタートアップ企業です。2018年に、同社の1年の予算を全て開示しています。事業保険は予算全体の0.6%と、全体で見ると規模の小さな出費でした。健康保険と労働者災害補償は「Teammate Benefits」の項目に含まれています。これらの補償の費用は事業運営費用全体の4.6%にあたります。
同社の2016年度の予算では、健康保険と労働者災害補償は月額6,635ドルで、月の出費の1.9%、人件費総額の約2.9%です。
Kinstaでは、事業保険の費用は年額約30,000ドルとなっています。
しかし、保険業界はまだSaaSのサブスクリプションを提供するまでには至っておらず、たった一つの企業の例から、全ての企業に適した見積金額を割り出すことは不可能です。企業の規模や、属する業界、その状況などによって、その金額は低くなる場合もあれば、高くなる場合もあります。
小規模な事業に必要な保険の種類は?
小規模な事業で発生する事案の大半は、専門職業人賠償責任保険、労働者災害補償、総合賠償責任保険のいずれかでカバーできます。それではあなたの会社はこの3つの契約全てに加入すべきなのでしょうか?
これには全ての企業に当てはまる万能な答えはありません。スタートアップ企業や中小企業と一口に言っても、資産、従業員数、リスクが大きく異なります。そこで、それぞれの保険を、そのカバーする領域毎に分解しました。
どの保険が必要か既に分かっているという方は、この項目を飛ばして、費用の項目へお進みください。
事業は消費者や顧客と直接やり取りするか?─総合賠償責任保険
潜在的な顧客や既存の顧客とやり取りしたり、物理的な商品を販売したり、対面のサービスを提供したりしている場合、この保険を検討すべきです。法律で義務づけられているわけではありませんが、総合賠償責任保険は、一般的な損害賠償の訴訟から身を守りたい成長企業に必要な保険とされています。
自宅から働き、フリーランスとだけ提携している個人事業主の方も、一般的には、この保険に加入しておくことが推奨されます。
補償の範囲
自社の従業員によって加えられた身体への危害や名誉毀損に関連する物的損害や出費。見込み客が予期せずバナナの皮で足を滑らせた場合でも、従業員がコーヒーをコピー機にこぼしてしまった場合でも、商品のリリースや広告キャンペーンが原因で訴訟を起こされた場合でも対象となります。
個人のオフィスを持つか?─総合賠償責任保険、財産保険、ビジネスオーナーズ保険
時代は変わりました。スタートアップ企業や小規模事業者でも、技術の進歩を踏まえて─専用のオフィスビルを借りるのではなく─シェアードオフィスやコワーキングスペースを選ぶ昨今。多くの場合、コワーキングスペースを管理する企業が、既に自社の財産を守る保険に加入しているので、別途保険に加入する必要はありません。
しかし、従来通り商業用不動産を大家から借りる場合には、リースの際に保険への加入が求められます。
通常の総合賠償責任保険のみで良い場合もあれば、財産保険への加入も求められる場合もあります。これは「転倒(事故)保険」としても知られています。
補償の範囲
総合賠償責任保険は企業の従業員によるあらゆる基本的な物的損害と、その行為が直接的な原因となった怪我に関連する費用をカバーします。
財産保険の適用範囲は契約毎に異なります。それでも、あなたの(もしくは大家の)物的資産をより広範囲に渡り補償してくれます。激しい水害やカビによる損害、家具や壁、床などへの偶発的な損害などもその対象となります。
ビジネスオーナーズ保険は総合賠償責任保険と財産保険を組み合わせた保険で、上記全てをカバーします。
従業員を雇用しているか?─労働者災害補償とEPLI保険(Employment Practices Liability Insurance)
あなたの会社がフルタイムまたはパートタイムの従業員を直接雇用している場合、労働者災害補償に加入する必要がある可能性が高いです。また、現在の(もしくはかつての)従業員からの訴訟から身を守るためにも、EPLI保険への加入を検討することも強くおすすめします。
労働者災害補償
2021年時点で、この保険への加入は大半の雇用主に法律で義務づけられています。ちなみにアメリカでは、州単位で規定されています。そのため、具体的な要件や費用は国や州ごとに異なります。
法的な要件であるため、労働者災害補償への加入手続きはほとんど自動的に行われることになるはずです。とは言え、ご自身の地域の要件を再確認し、それを確実に満たすようにしましょう。
補償の範囲
労働者災害補償は従業員の医療費と、仕事中に事故に遭った場合や病気になった場合の逸失賃金の一部を補償します。
補償される逸失賃金の割合は個別の保険契約ごとに異なります。(請求が認められるには、就業時間中に従業員が職務にあたったことが怪我や病気の直接の原因である必要があります)
EPLI保険(Employment Practices Liability Insurance)
当然、従業員の病気のみがフルタイムの従業員を雇用する上でのリスクではありません─業務中、従業員は企業の名前を背負って行動をします。
会社は自社の従業員による他の従業員に対する行為にも責任を負います。EPLI保険は従業員の行いに対する訴訟から会社を守ります。
補償の範囲
従業員の雇用(もしくは雇用していない場合でも)に起因するほとんど全ての訴訟をカバーします。
- 雇用契約への違反
- 不当解雇
- 雇用、昇進の不履行
- セクシャルハラスメント
- 査定に関する過失
習熟作業者派遣組織(PEO)を利用する
専任の人事スタッフがいないスタートアップ企業も多く、それが従業員保険やコンプライアンスに関する手続きをより困難にしています。
州ごとに法律が異なるアメリカでは、コンプライアンスは非常に複雑です。その手助けをしてくれる専門家を雇った方がいい場合も多いでしょう。
習熟作業者派遣組織(PEO)は企業に代わって従業員を雇用してくれる組織です。新しく従業員を雇用する際、間違いなくその地域の定める権利に基づき補償され、全ての雇用関連の法律を遵守していることが保証されます。
EPLI保険も含まれていることが多いですが、その範囲は限定的で、非常に一般的なものに留まっている傾向があります。あなたの業界や事業モデル特有のリスクは補償の対象外となることもあるでしょう。
Kinstaでは、JustWorksが当社の全てのアメリカの従業員の雇用を担当しています。そうすることで間違いなく法律を遵守することができ、従業員の正当な権利(もしくはそれ以上)を保証することができます。
法人向けに個別のサービスの提供やオンラインでのコンテンツの公開をしているか?─E&O保険(別名「専門職業人賠償責任保険」)
法人向けの専門のサービスを提供している場合、こちらの保険への加入を検討するといいかもしれません。
あなたの会社の商品やサービスが、相手の企業の収益や機密情報の取り扱いに直接影響を及ぼす場合、こちらの保険への加入をおすすめします。あなたの会社側の過失によってこれらに悪影響を及ぼした場合、訴訟に発展する可能性は大いにあります。
保険の補償範囲は該当する業界の顧客や、潜在的な過失の種類によって異なります。
機密情報を一切取り扱わない社内のコラボレーションツールを販売する小規模なスタートアップ企業と、決済システムを扱うスタートアップ企業では保険の内容が大きく異なります。同様に、100万ドル規模のキャンペーンのコンサルティングを行うデジタルマーケティング会社と小規模なデザイン会社とではニーズが全く異なるはずです。
補償の範囲
エクスプロイトにつながるバグや、物理的商品における問題など、契約に基づいた商品やサービスの提供が行われなかった場合の業務上過失、間違いや失敗を補償します。
当初のプロジェクトの話し合いで定められたとおりの最終商品が提供されていない、と顧客が主張するプロジェクトの所掌に関するいざこざも対象です。
さらに、思いがけない商標権侵害も補償します。会社が最悪のケースに被害を被るのを回避することができます。
Leo Welder氏は身をもってそれを体験しています。映画のワンシーンのような出来事ですが、「efax」という言葉を使用したことで彼のスタートアップ企業choosewhat.comは何の前触れもなく商標権侵害で訴えられました。
ベンチャー基金がなければ彼の事業はそこで終わりを告げていたでしょう。
これが訴訟費用をカバーしていなかったらこのウェブサイトは現在、存在していなかったはずです。
この一件により会社は何十万ドルもの出費を被ったため、その後、専門職業人賠償責任保険の年額保険料として数百ドルを支払い始めることにしました。
標準的な保険で最大100万ドルの訴訟費用を補償できます。保険にあらかじめ加入していたら彼がどれだけ費用を抑えられたか…想像してみてください。
顧客の企業があなたの商品を使って機密情報を取り扱っているか?─サイバー保険
現代のスタートアップ企業の大半はインターネットやデータに依存しています。あなたの会社が機密情報を直接取り扱う場合や、顧客があなたの商品を使って機密情報を取り扱う場合、サイバー保険が大きな意味を持ちます。
補償の範囲
この保険は、バグ、漏洩、エクスプロイト、長時間のダウンタイムなどによる最悪の場合の損害を補償します。例えば、ハッキング、データ漏洩、エクスプロイト、ダウンタイム、逸失利益が原因の訴訟費用などが対象です。
総合賠償責任保険の費用はどのくらい?
スタートアップ企業や小規模事業者の総合賠償責任保険の費用は通常、年額400〜750ドル程度です。月額換算すると、42ドル〜92ドルとなります。
これで安心して事業を運営できることを考えれば決してとんでもない金額ではないでしょう。この保険に加入していれば、基本的な損害賠償の訴訟や費用を補償することができます。
費用は会社の規模やリスク要因、保険契約の範囲、控除免責条項などによって異なります。
スタートアップ企業の平均費用と費用の幅
Insureonによると、平均保険料は年額741ドル、中央値は年額421ドルです。メディア、IT、コンサルティング分野では、年額505〜640ドルの範囲となっています。
Progressive Commercialの顧客の平均保険料は年額636ドル、中央値は684ドルです。TechInsuranceの顧客の平均保険料は年額336ドル、中央値は340ドルです。
Trusted Choiceでは個人事業主の場合には年額500ドル、小規模なコンサルティング企業については年額最大3,000ドルの保険料を推奨しています。
創設者のみが在籍し、従業員はおらず、小規模な取引と顧客を少々抱えているような初期のスタートアップ企業の場合、おそらく年額400〜500ドル程度の保険料が妥当でしょう。
より多くの従業員を抱え、規模の大きな取引を行い、リスクの高い業界に属する、成熟したスタートアップ企業の場合、年額1,000〜2,000ドル、もしくはそれ以上支払う必要があるかもしれません。
ビジネスオーナーズ保険の費用はどのくらい?
ビジネスオーナーズ保険は、総合賠償責任保険と財産保険を組み合わせた保険です。そのため、総合賠償責任保険単体よりも若干高額になります。とは言え、二つの保険を個別に契約するよりはかなり安価です。
小規模な事業の場合、保険料は平均で年額600ドル〜1200ドル程度となるでしょう。
費用は企業の年間収益、従業員数、商業用不動産の価値、事業のリスクレベルによって異なります。
Insureonによると、平均保険料は年額1,191ドル、中央値は年額636ドルです。情報テクノロジー企業の中央値は540ドルです。
Progressive Commercialによると、平均保険料は年額1,008ドル、中央値は年額1,020ドルです。
従業員数が少なく、小さなオフィスに入居している初期のスタートアップ企業の場合、適切な保険会社を選択すれば、年額400ドル〜500ドル程度の保険料で済むと予想されます。
より豪華なオフィスを持ち、多くの従業員を抱え、責任を負うリスクの高い業界に属する、成熟したスタートアップ企業の場合、年額1,200ドルかそれ以上の保険料を支払うことになるでしょう。
専門職業人賠償責任保険とE&O保険の費用はどのくらい?
小規模な事業の場合、専門職業人賠償責任保険(別名E&O保険)の費用は年額500〜2,000ドル程度です。
その幅が広いのには理由があります。保険料は契約の規模と、サービスに関連する潜在的な損害のリスクによって異なります。
例えば、個人事業主であっても、顧客の事業に大きな損害をもたらす可能性のある、規模の大きなコンサルティング契約を結んでいるかもしれません。その場合、保険の補償範囲は広くなり、保険料もそれに応じて高くなるでしょう。
スタートアップ企業の平均費用と費用の幅
Insureonによると、専門職業人賠償責任保険の平均保険料は年額1,735ドル、中央値は年額713ドルです。Progressive Commercialの顧客の平均保険料は年額500〜1,000ドル、中央値は504ドルです。
CoverWalletでは、年間100万ドルの補償範囲に対する年額保険料は1,000〜3,000ドルと見積もっています。TechInsuranceでは平均的な費用の幅を730〜1,400ドル、もしくはそれ以上、中央値を年額728ドルとしています。
小規模な契約や顧客を数件抱え、専門職業人賠償責任に関連するリスクが限定的なスタートアップ企業の場合、年額600〜900ドルと比較的少額な保険料で済むはずです。一方、より大きな損害のリスクを抱える重大な契約を扱うスタートアップ企業の場合、年額1,500ドル近い保険料になる可能性があります。
労働者災害補償の費用はどのくらい?
従業員の多くが事務職であるスタートアップ企業の場合、通常保険料は年額2,000〜3,000ドル程度です。ソフトウェア開発者、営業、マーケティング職の従業員が怪我をするリスクは、建設現場の作業員よりも低いため、その差分が反映されます。
労働者災害補償の保険料は状況によって異なります。従業員数、支払い給与の総額、個別の従業員の職務におけるリスクの種類などによって変わります。
スタートアップ企業の平均費用と費用の幅
National Academy of Social Insuranceによると、給与100ドルあたりのコストには0.75ドル(テキサス)〜2.74ドル(アラスカ)と幅があります。
幸い、給与100ドルあたりの州の平均保険料は、最も高いアラスカの料金ではなく1ドル(0.98ドル)に近い額となっています。テキサス州における保険料の安さは、サンフランシスコ(カリフォルニア州─1.85ドル)やニューヨーク州(1.02ドル)よりもオースチン(0.75ドル)で起業することのメリットの一つとなり得ます。
しかし、この保険料は、従業員がリスクの高い職業に従事しているかどうかによっても異なります。National Council on Compensation Insuranceによると、給与100ドルあたりの保険料は、事務員の場合平均0.12ドルであるのに対し、造園業の場合平均6.94ドルとなります。
スタートアップ企業の多くは造園師や塗装工よりも事務員の方が多いはずなので、労働者災害補償の保険料は、通常それほど高額にはならないでしょう。
2009年の政府の調査によると、従業員を抱えるアメリカの一般的なスタートアップ企業は4.1人のフルタイム従業員を雇用しているということです。
最近では、より規模が大きく、既に成功を収めている企業もスタートアップ企業の分類に含まれるようになったため、これが平均従業員数に影響を及ぼしています。しかし、「少数精鋭で野心的」なことがスタートアップ企業の定義とすると、スタートアップ企業を自称するものの多くが「従業員数10人以下」といったところかもしれません。
Payscaleによると、全てのスタートアップ企業の従業員の平均給与はなんと年102,000ドルにも及びます。平均的な給与の従業員を4人抱えるサンフランシスコの企業が、州の平均保険料を支払う場合、年額7,252ドルを支払うことになります。テキサス州の場合、平均保険料を鑑み2,940ドルとなります。
給与100ドルあたりの事務職の平均保険料0.12ドルを適用し、保険契約全体の手数料250ドルを加えた、より楽観的な見積もりの場合、年額たったの720ドルという計算になります。
Progressive Commercialによると、その保険料の中央値は年額960ドルです。平均保険料は年額1,032ドルです(従業員1人あたりではなく、1企業あたり)。TechInsuranceは小規模なテクノロジー企業の場合、平均保険料は年額440ドルから600ドル程度としています。
EPLI保険(Employment Practices Liability Insurance)の費用はどのくらい?
小規模な事業の場合、EPLI保険料は通常、年額800〜4,000ドル程度となります。ビジネスオーナーズ保険にEPLI保険の裏書き条項を加える場合、年額約300ドル〜となります。
「スタートアップ企業は安全であり、こんな保険は費用の無駄遣いだ」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、データを見るとそれは「賢い判断ではない」ことが明らかになります。
過去30年間で、従業員による訴訟は400%増加しており、そのうち41.5%は従業員数100人以下の企業に対するものでした。
示談解決の平均費用は75,000ドルです。裁判で負けた場合、平均で217,000ドルの出費になります。
スタートアップ企業の平均費用と費用の幅
ビジネスオーナーズ保険に加入している場合、保険会社によりEPLI保険の裏書き条項を勧められることがあります。EPLI保険の裏書き条項を加えると、通常のビジネスオーナーズ保険の補償範囲にEPLI保険の補償範囲が加わります。その費用は小規模な事業で、通常年額300〜500ドル程度となります。
個別の保険契約の場合、10〜15人程度の従業員のスタートアップ企業の年額保険料は平均で1,200から2,000ドルとなります。
40〜50人の従業員を抱えるテクノロジー系スタートアップ企業の場合、年額4,000から5,000ドル程度になることもあります。
サイバー(データ漏洩)保険の費用はどのくらい?
サイバー保険は年額500ドル程度で済む場合もあれば、5,000ドル以上になることもあります。
サイバー保険の補償範囲もまた、企業のニーズによって大きく異なります。大企業の決済や機密情報などを取り扱う場合、小規模事業者向けのウェブサイトを作成するウェブデザイナーよりも補償の範囲は広くなります。
電子上で機密情報を保存・処理する場合、それに起因するあらゆる損害に責任を負うことになります。そのため、例え小規模なECサイト事業であってもこれらの保険への加入が必要になり得ます。
ここでも保険契約の規模やその補償範囲によって、料金に大きな差が生じます。より具体的には、データ漏洩、ハッキング、長期間のダウンタイムが生じた場合の損害の大きさなどが加味されます。
平均費用と費用の幅
ややニッチな保険であり、保険の補償範囲や保険料は状況によって大きくことなるため、費用に関する情報はあまり多くありません。
Progressive Commercialによると、スタートアップ企業におけるサイバー保険費用の幅は500ドル〜5,000ドル程度とのこと。HowMuch.netによると、見積金額は750ドル〜8,000ドルと幅が出ています。
他にも、年間1,100〜22,000ドルとしているサイトもあります。
あなたの企業がクレジットカード情報を保存したり決済を取り扱ったりしている場合、違反に伴う賠償金のリスクは非常に高くなります。賠償金の平均費用は、なんと失われた記録1件あたり150ドルです。潜在的な損害の大部分を補償できる、十分な補償額の保険でなければ、実質意味がありません。
そのため、平均保険料や中央値だけでは、実際にどれくらいの費用を支払うことになるかは断定できないでしょう。
顧客の重要な情報を直接取り扱わないスタートアップ企業の場合、おそらく500ドル〜1,000ドルなど、比較的安価な保険を勧められることになります。
多くの顧客の記録を扱うスタートアップ企業の場合、最低でも年額3,000ドル〜5,000ドルの保険料を支払うことが予想されます。
保険の費用に影響を与える要因
事業保険の費用がどれくらいかかるかは様々な要因によって変わります。まず、どの保険に加入するかによって異なります。しかし、決してそれが唯一の要因というわけではありません。
会社の規模と給与
小規模なスタートアップ企業を運営しており、フリーランスとしか仕事をしないという方は、大抵、総合賠償責任保険で事足ります。スタートアップ企業や小規模事業者の総合賠償責任保険料の中央値は年額500ドルです。
しかし、フルタイムの従業員を雇用している場合、労働者災害補償への加入が法律で義務づけられています。通常、従業員一人あたり、1年間で数千ドルまではいかなくとも、数百ドルはかかります。実際の保険料は地域の法律やその他の要因で変わります。
Bufferが給与総額の2.9%を健康保険と労働者災害補償の保険料として支払っているのは既にご紹介したとおりです。
業界、ビジネスモデル、潜在的な損害の範囲
もう一つの要因はあなたの企業が属する業界と、企業特有の潜在的責任の範囲です。美容師にとって起こりうる最悪のケースと言えば、お客さんの耳に誤って切り傷をつくってしまう、アレルギー反応を起こしてしまう…といったところでしょう。この場合の損害額は100ドル程度で収まります。
一方で、Amazonの業務を請け負う開発会社の場合、状況は全く異なります。成果物の問題点が原因でハッキングが起きた場合、もしくは長時間のダウンタイムが発生した場合、損害額は数百万ドルにも及びます。
また、何千件もの顧客のクレジットカード情報などの記録を保存するB to CのSaaSを提供する企業もリスクが非常に高くなります。
保険の適用範囲と保険料
保険の適用範囲とは、特定の保険契約の補償金額の上限です。この上限は保険料金に直接関係します。
保険会社の営業担当者と話をしていると、より高額な保険料金を払わせようと、桁外れな適用範囲を提案しているように思えるかもしれません。
実際にそうである場合もありますが、スタートアップ企業は訴訟になると立場が弱く、最悪のケースでは高額な請求額を支払わなければならなくなります。
ですので、ご自分の会社の属する業界、企業の規模、ビジネルモデルに適した適用範囲を選ぶ必要があります。
従業員のリスク
従業員のリスクも事業の保険費用に影響を与えます。具体的には、健康保険と労働者災害補償に関連する要因です。大半のスタートアップ企業の従業員はリスクが非常に低い「事務職」に分類されます。幸い、保険契約ではその面が考慮され、通常は事務職の従業員の補償にかかる費用は、給与のほんの数パーセント程度となります。
大工など、肉体労働者を雇用している場合、その数人の従業員のために他の事務職全員分の保険料よりも高額な保険料を支払うことになります。
所在地
事業運営においては、常に会社の属する地域の法律や規制に従う必要があり、それらが加入すべき保険やその保険料に影響を与えることがあります。
また、財産保険は不動産の価格、異常気象のリスクなどの影響を受けます。
分散型ビジネスは地域の規制に従う必要がある
考慮すべきは企業の登記上の住所や、オフィスの所在地だけではありません。スタートアップ企業の場合、ビジネスの拠点が分散していて、様々な地域からリモートで作業をする従業員を抱えていることもあるはずです。
該当する地域や国の規制によっては、従業員毎に異なる保険料が課せられることがあります。これは労働者災害補償の保険料に直接影響します。アメリカだけとっても、給与100ドルあたり、0.75ドルから2.74ドルまでと平均保険料には幅があります。
保険に関する法律は州や国によって異なるため、従業員毎に完全に異なる保険を適用しなければならないことすらあります。これは遠隔地で従業員を確保する上でのデメリットの一つです(それでも、Kinstaでは、リモートチームの編成を強く推奨しています)。
そうは言っても、経営陣が必ずしも法律関連の書類の処理に何時間も費やさなくてはならないとは限りません。POEサービスを利用して、これらの処理を一任してもいいでしょう。せっかく労力を費やしても、法律を遵守していなければ意味がありません。
今回は事業で必要となりそうな標準的な保険とその平均的な費用を一通りご紹介しました。当社の経験値に基づいた概算もいくつかご紹介しています。
ただし、ご自身の会社の実際に必要な保険の種類や費用はブログ記事を一件読んだだけで分かるものではない、ということは覚えておきましょう。フルタイムの従業員を世界各国に抱える分散型の企業の場合、特にそうです。
まとめ
自宅のオフィスやコワーキングスペースで仕事をしており、電子上で保管している最も機密性の高い情報がメールアドレスであるという個人事業主の場合、月額40〜50ドルの総合賠償責任保険だけで、おそらく事足りるでしょう。
クレジットカード情報を保存している場合や、テクノロジー企業向けの重大な契約のコンサルティングを行っている場合、保険料の大部分を占めるのはサイバー保険の費用になるはずです。
事業の全ての領域をカバーしようとすると、保険料は年額数千ドルにもなる場合もありますが、たった一度のデータ漏洩の損害賠償額は86,500ドル、もしくはそれ以上にも膨れ上がる可能性があります。また、あなたの会社のソフトウェアのバグにより、数日間に渡る大企業の生産性の損失をもたらした場合の損害賠償金額と比べれば、保険料などちっぽけなものです。
スタートアップ企業は一般的に、通常の企業と比べ、こういった事態への耐性がありません。そのため、最悪のケースに備えて、事業や資産を守ることが必要不可欠です。
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