Slack、Zoom、HubSpotは、いずれもソフトウェアという共通点があります。

しかしそれだけにとどまらず、この3社はグロースマーケティングでプロダクトレッドグロース(PLG)を取り入れた先駆者でもあります。

この3社は製品に根付いた価値と顧客体験を活かし、世界中の需要を拡大することで、急速にビジネスを拡大しました。

当時、こうした企業は「バズった」と認識されていましたが、急速な成長を遂げた理由が気になります。一体どのように消費者の関心を集め、人気を博したのか。

その答えが、プロダクトレッドグロース(PLG)です。

今回は、プロダクトレッドグロースの概要や重要性、原則などを紐解いていきます。また、この戦略を導入して成功した企業例もご紹介します。

プロダクトレッドグロース(PLG)とは

プロダクトレッドグロースとは、日本語に訳すと「製品主導の成長」であり、収益を製品そのものが主導するソフトウェアビジネス戦略を意味します。PLGの原則をもとに各部門を連携させることで、顧客の獲得、拡大、維持を促進します。

この成長モデルは、製品開発から営業、マーケティング、カスタマーサポートに至るまで、さまざまなチームを結集し、製品と密接に結びつけることで構築され、スケーラブルで持続可能なビジネスの成長を実現します。

プロダクトレッドグロースが登場したのはほんの数年前で、比較的まだ新しい成長モデルです。PLGの原則は、営業やマーケティングではなく、SaaS製品を中心とした、製品およびユーザー体験優先して成長を目指すことにあります。

プロダクトレッドグロース(PLG)が生まれるまで

プロダクトレッドグロースの進化
プロダクトレッドグロースの進化

1. オンプレミス型ソフトウェア─営業主導の成長モデル(1980〜1990年代)

1980年代は、インターネットがまだ発展の初期段階にあり、今日のように誰もが気軽に利用できるものではありませんでした。またソフトウェアは、物理的な箱から取り出してインストールするのが主流でした。

その当時は巨大マシンを何十万ドル、時には何百万ドルもかけてオンサイトで構築せざるを得ませんでした。

このような6桁、7桁台の高額マシンを販売するため、多くの企業は営業主導の成長モデルを採用。営業担当者が会食やゴルフなどの接待を重ねて、隙をついて強引に売り込むなんていうのがよくあるパターンでした。

また買い手側は、採用するソフトウェアと自社のITインフラの互換性を懸念していた時代でした。

2. クラウドソフトウェア─マーケティング主導の成長モデル(2000〜2010年代)

21世紀を迎えると、クラウドが注目され始めます。米国のSalesforceは、ソフトウェアをデータセンターからクラウドに移行した先駆者の一社。オンサイトソフトウェアはオンデマンドソフトウェアへと移行し、開発コストは縮小。世界中でソフトウェアがより身近なものになりました。

ソフトウェアがほぼすべてのビジネスに対応するようになったことから、アウトバウンド営業チームは、技術担当者とやり取りをする必要がなくなりました。取引先の重役からKPIやROIについて聞き、製品がクライアントの目標達成にどのように貢献できるかを話し合うことができるように。

この時代は、マーケティング主導の成長モデルが主流となりました。営業開発担当者(SDR)やマーケティング適格リード(MQL)といった新たな用語が登場し、インバウンドマーケティングは、顧客が企業を見つけて、デモやインサイドセールスを促進する方法に変わっていきました。

3. PLG(2020年代)

そして2020年代初頭からは、製品主導の成長モデルが採用されるように。ユーザーは統合され、自動化されたワークフローが一般的に受け入れられつつあります。

さまざまなソフトウェアが相互に接続され、API、AI、自動化の台頭と相まって、2016年にOpenViewのBlake Bartlett氏が名付けた「プロダクトレッドグロース」とよばれる新戦略が誕生しました。

PLGは、ユーザー体験の重要性から生まれたモデルで、ソフトウェアがかつてないほど身近になった今、マーケティングや営業主導の成長モデルが疑問視されはじめ、反対に製品のパフォーマンスの重要性は加速しました。

PLGで成功した企業例

PLGを採用した代表的な企業をいくつか見てみましょう。

Slack

Slack
Slack

Slackはネットワーク効果を活用し、急速な成長を遂げた企業の代表例です。

アーリーアダプター(早期利用者)が同僚にサービスの利用を促し始めるタイミングで、大企業にとって重要なメッセージ履歴を完全に保存可能な有料プランのアップセルを行います。

Dropbox

Dropbox
Dropbox

Dropboxもまた、製品そのものに焦点を当て成長を遂げた良い例です。Dropboxアカウントを持っていない友人や同僚にもフォルダやリンクを共有できるのが特徴です。

つまり、Dropboxユーザーがフォルダを共有するたび、共有相手はアカウントを作成することなく製品ユーザーになることを意味します。そしてユーザーの多くは、製品の性能を実際に体験した後、アカウントを作成します。

Dropboxのお友達紹介プログラムでは、ユーザーを紹介するごとに追加のストレージ容量を得ることができます。この特典が新規ユーザーの獲得を促進し、PLGをさらに加速させています。

Notion

Notion
Notion

PLGをうまく取り入れるヒントは、製品を簡単に使用できるようにすること。Notionは、これを考慮してプラットフォーム上で無料のテンプレートを提供しています。また、Notionの機能について解説するウェビナーやコンテンツも用意されています。

HubSpot

HubSpot
HubSpot

HubSpotは、フリーミアムモデルを好むユーザー向けに、営業スタッフやカスタマーサポートスタッフを提供するというアプローチをとっています。初期段階からこのようなサポートを提供することで、ユーザーの製品への理解が深まり、優れたユーザー体験を実現し、結果として顧客獲得が促進されています。

セグメンテーション戦略をとることで、リソース(主に人材)を適格な見込み顧客に割り振ることができるように。サポートとリソースに惜しみなく投資することで、成長を促進する製品を作り上げることに成功しています。

その他の成長モデルとの比較

プロダクトレッドグロースは、SaaSやソフトウェア企業の新戦略。とはいえ、営業主導やマーケティング主導の成長モデルなどを採用している企業も未だ多数見られます。ということで、他の成長モデルとPLGを比較してみましょう。

営業主導

売上主導のビジネスモデルは非常にわかりやすく、営業チームが主な成長努力を牽引する戦略で、会社で行うすべての業務を営業チームが支えます。各部門のあらゆる意思決定(些細なものから重要なものまで)も、「営業チームがより多くの顧客を獲得することに役立つかどうか」で下されることになります。

しなしながら、53%の消費者は、営業担当者とのやり取りなしで製品を購入することを好んでいるのが現状です。

マーケティング主導

マーケティング主導の成長モデルも主要です。この戦略を採用する企業は、より多くの見込み顧客を顧客に転換できるよう、あらゆる意思決定においてマーケティングチームを考慮することに重点を置きます。

営業チームも依然として取引を成立させる大切な役割を担いますが、主にマーケティングチームがさまざまな広告戦略や顧客調査を通じて成長を推進します。

類似製品やソフトウェアが溢れる業界では、収益向上の鍵はマーケティングチームが握っているのが一般的です。

製品主導(PLG)

上記2つの成長モデルでは、製品を購入を検討しているユーザーに製品の価値を売り込む必要があります。一方、製品主導の成長モデルの場合は、製品自らがその価値を語るよう、製品の開発に重点を置きます。

つまり、マーケティングチームや営業チームに投資する代わりに、製品開発に多くを投資することを意味します(もちろん、営業チームやマーケティングチームが何もしないというわけではないが)。

この場合の主な目標は、フリーミアム課金モデルを通じて、見込み顧客に気軽に製品を試してもらうことにあります。ユーザーを顧客への「入り口」へと誘導することで、製品の価値をユーザー自らが体験して判断し、利用し続けるように促され、結果として多くのユーザーが有料プランにアップグレードするように設計します。

PLGの重要性

ソフトウェア企業にとって、プロダクトレッドグロースは見逃せない成長モデルです。成功の鍵は企業ではなく、消費者が握っている今日のデジタル時代では、ユーザーに対して執拗な営業をかけ、マーケティング戦略を展開して成長を目指すだけでは不十分です。

エンドユーザーがビジネスの成功を左右するということは、最も優れた製品が頂点に立つことを意味します。

SaaSやソフトウェア企業におけるPLGの重要性について、具体的に掘り下げてみましょう。

1. 顧客体験の向上

PLGの推進においては、市場で優位に立てるように製品を磨き上げます。この「磨き上げる」とは、顧客体験の改善が主であり、エンドユーザーを念頭に置いて製品を設計することを意味します。

単に機能の追求だけでなく、機能がどのように相互作用し、エンドユーザーが楽しめるかということが重要です。見込み顧客との最初の対話から、製品を使い始めるまでの時間を縮めることができます。

2. より多くの顧客を獲得

製品開発に重点を置くと、ユーザー体験を向上されます。つまり、結果としてより多くの顧客を獲得できることを意味します。

また、無料トライアルやアカウント登録を通じて、顧客獲得が製品に組み込まれていることになります。これによって営業活動やマーケティング活動の費用を大幅に削減でき、製品体験を通じた顧客獲得にさらに投資することができます。

3. より高速な成長

まずは無料で製品を試すことができると、結果としてユーザーは有料製品を購入しやすくなります。これによって、コンバージョンファネルに取り込むことができるユーザーが増え、契約数が促進されます。

4. 企業価値の向上

PLGをビジネスに導入すべき最も重要な理由はおそらく、企業価値が上がることにあります。PLGを採用する企業は、より価値が高くなります。

OpenView Partnersの調査によれば、PLGを取り入れた企業は、別の戦略を採用する企業よりも30%価値が高いことが明らかになっています。

PLGの主要原則

PLGの概要や重要性がわかったところで、主な原則をいくつかご紹介します。

1. エンドユーザーに焦点を当てる

PLGの中核となる基本原則は、エンドユーザーに焦点を当てること。ビジネスの全ては、ターゲットとするユーザーのためにあります。エンドユーザーに価値を提供することに専念し続けることで、消費者に役立つ製品開発を推進することができます。

2. ユーザーが生活する場所で役立つ製品を開発する

ただ優れた製品を作るだけでなく、ユーザーが拠点とする場所で生きる製品を開発しなければなりません。これはオーディエンスが生活し、働く場所に簡単に溶け込めるような製品を目指すことを意味します。ワークフローに簡単に取り入れることができれば、製品を利用してくれる可能性が高まります。

3. オープンソースを構築する

製品をAPIで駆動させることも大切です。オープンソースにすれば、アクセスしやすく、カスタマイズ可能で、なおかつワークフローに簡単に統合できるようになり、より多くの人にとって価値ある製品になります。

4. 柔軟性を考慮する

柔軟性もPLGの重要な原則です。エンドユーザーに柔軟性に優れた製品を提供することを心がけましょう。より多くの価値を提供するため、ユーザー独自の要件に合わせてカスタマイズできるツールや機能も組み込むのが賢明です。

5. 製品開発と同時にコミュニティを築く

コミュニティなしに製品は成り立ちません。製品を開発しながら、コミュニティの構築も行いましょう。後付けではなく、製品開発とともに築いていくことが重要です。

コミュニティは製品の一部であり、製品に組み込まれているのが理想的です(その逆も然り)。

これによってブランドに対する信頼性が培われ、ブランドの普及を通じてビジネスを支持してくれるユーザーが自然と集まります。

PLGおよびコミュニティ戦略の例(出典: OpenView)
PLGおよびコミュニティ戦略の例(出典: OpenView

6. 支払いを求める前に価値を提供する

これもPLGの柱となる原則の1つで、見込み顧客に料金の支払いを促す前に価値を提供しましょう。フリーミアムモデルで製品を提供することで、消費者がリスクを負わずに済みます。

リスクがないことで、ユーザーはより気軽に製品を試すことができます。つまり、より多くのユーザーに製品を手に取ってもらい、有料会員を増やすことができます。

製品の適正価格の付け方についてはこちらをご覧ください。

PLGの指標

PLGの主な原則が分かれば、この戦略が軌道に乗っているかどうかを監視する方法も気になります。

進捗を確認するのに役立つ一般的な指標をいくつかご紹介します。

1. Time to Value(TtV)

新規ユーザーが製品やサービスに価値を見出すまでの時間を意味します。プラットフォームへのアカウント登録が必ずしもTtVイベントとは限りません。

顧客情報のインポート、ツールの統合、友人の招待、オンボーディングの完了など、より多くのアクションが発生した時点を示すのが一般的です。

この時間はゼロに近ければ近いほど良いとされます。SaaS製品はこのTtVが長くなる傾向にありますが、ユーザーのオンボーディング体験を最適化することで、短縮することができます。

2. Product-Qualified Lead(PQL)

Marketing Qualified Lead(MQL)とは、マーケティングチームにおいて一定の条件をクリアした見込み顧客を意味しますが、Product Qualified Lead(PQL)は、製品の価値をすでに実感している見込み顧客です。通常はフリーミアムまたは無料アカウントを持つユーザーを指します。

PQLの定義は、企業や目標によって異なりますが、一般には営業チームに渡すことができる見込み顧客です。

3. 機能採用率

機能採用率もまた、PLGで追跡すべき指標です。製品採用率に関しては、製品開発チームで追跡されるのが一般的ですが、PLGではこの機能採用率が重要になります。

パーセンテージで測定し、製品の各機能をどれだけのユーザーが使用しているかを示します。このデータをもとに製品開発を促進しながら、ビジネスを拡大していくことができます。

例えば、導入した新機能の採用率が高く、製品全体の採用率の上昇を後押ししていることがわかるかもしれません。

4. 収益増加額

これは売上の成長を見る重要な指標になります。PLGでは、ユーザーに前もって価値を提供することが不可欠ですが、それだけでは終わりません。

大切なことは、無料ユーザーの何割かが最終的に有料プランにアップグレードするほどの価値を提供すること。また、さらなるアップグレード、アップセル、アドオン、クロスセルによって収益を高めることができます。

収益増加額は、既存顧客から生み出される収益に注目する指標です。

PLGが適しているかどうかを見極める方法

では、PLGの戦略がプロジェクトに適しているかどうかは、どのように判断すればいいのでしょうか。

まずは、PLGがどのようなタイプのビジネスに適しているかを知ることが重要です。

PLGはSaaSビジネスに適しています。また、手頃な価格設定で、トランザクションの多い売上を上げるビジネスにも効果的です。

SaaS事業を経営している場合は、市場、リソース、製品準備という3つの観点に注目してみてください。

1. 市場

まずは、市場や競合他社に目を向けましょう。

以下のような点を自問してみてください。

  • 製品が市場に適合しているか
  • 成長市場であるか
  • 満足していない消費者がいるか
  • 競合他社はどこか
  • 競合他社の利点と欠点
  • 顧客獲得にどのくらいの投資が必要になるか

2. リソース

PLGを取り入れて自社製品の売上が見込めると判断したら、次に考慮すべきはリソースです。以下のような点を検討してみてください。

  • 適切な人材が確保できているか
  • PLGの採用をチームが同意するか
  • PLGデータを追跡するための時間やリソースに投資できるか
  • リソースへの投資を正当化できるか
  • 何を犠牲にしてPLGに投資するのか
  • PLGを導入するための適切なマーケティング知識があるか

3. 製品の準備

リソースがあることを確認した上で、最後に製品の完成度を評価しましょう。

製品に関して、以下のような点を確認してください。

  • 直感的であるか
  • ターゲットオーディエンスの問題を解決しているか
  • 使いやすいか
  • 競争力のある機能を備えているか
  • 市場においてオリジナリティがあるか
  • 信頼性は十分であるか
  • 利用者の増加に対応できる拡張性があるか
  • 利用者が製品の価値をすぐに実感できるか
  • 競合他社との違いは何か

PLGに関するよくある質問

最後に、PLGについてよくある質問とその回答をご紹介します。

PLGを採用する場合には、どのような課題が生じますか?

第一に、マーケティング部門や営業部門ではなく、PLG戦略にチーム全体を投入すること。また、データの理解も課題になる可能性があります。PLGがどのように機能しているかを把握するのは簡単ではなく、だからこそTtV、PQL、機能採用率といったPLGの指標を監視することが重要になります。

ユーザー主導の成長モデルとの違いは何ですか?

ユーザー主導の成長モデルは、最高の顧客体験を創造するためにユーザーインサイトに依存し、製品主導の成長モデル(PLG)は、収益成長を促進するために製品体験に依存します。両モデルを併用するのがベストプラクティスで、素晴らしい製品を開発し、ユーザーにフィードバックを求め、フィールドバックを製品の改善に役立てるのが理想的です。

プロダクトレッドカルチャーとは何ですか?

日本ではあまり浸透していない用語ですが、製品と製品がエンドユーザーに提供する価値に集中する企業文化を、プロダクトレッドカルチャー(Product-Led Culture)と呼びます。各部門がまず自分たちの行動が製品をどのように改善し、最高の製品を生み出せるかを考えます。

まとめ

プロダクトレッドグロース(PLG)の採用をお考えなら、まずはエンドユーザーに焦点を当てることから始めてみてください。今の利用者を深く分析し、ユーザーがどのように製品をナビゲートしているのか、何に満足していて、どのような不満があるのかを調査し、製品体験を最適化しましょう。

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Jeremy Holcombe Kinsta

Content & Marketing Editor at Kinsta, WordPress Web Developer, and Content Writer. Outside of all things WordPress, I enjoy the beach, golf, and movies. I also have tall people problems ;).