メール配信はビジネスにとって要となる手段。ニュースレターやプロモーション、最新情報などを提供する際には、迷惑メールに振り分けられることなく、顧客の受信トレイに届けることが重要です。メールが顧客の目に留まることがなければ、せっかくの努力が水の泡となり、エンゲージメント率も下がってしまいます。
GmailとYahooメールは、最近新たなメール配信要件を発表しました。これはオンラインビジネスに利益をもたらし、セキュリティの強化、迷惑メール削減、メールの改善を行うことが目的です。
言い換えれば、メールマーケティングを行う企業は早急にこの新要件に対応する必要があります。
そこで今回は、新要件を無視すると生じる問題、そして新要件に対応するための手順をご説明し、メール配信とエンゲージメントの向上につながるベストプラクティスをご紹介します。
GmailとYahooが新たな要件を導入した理由
GmailとYahooは、メールサービスのセキュリティと品質を向上させる目的で、メール配信に関する要件を更新しました。この変更により、迷惑メールやフィッシング攻撃のような迷惑行為からの保護が強化されます。
この更新が行われた理由をもう少し掘り下げてみます。
セキュリティの強化
GmailとYahooの両社とも、なりすましやフィッシングを防ぐため、メール認証プロトコルを強化しています。これにより、メールサービスはメールの真正性をより適切に検証できるようになり、悪意のあるユーザーや業者がなりすましドメインからメールを送信することが困難になります。
迷惑メールの削減
ユーザーが受信する迷惑メールの量を削減することも今回の変更の大きな目的です。GmailとYahooは、関係性のある正当なメールのみが受信トレイに届くようにするため、より厳しい迷惑メール率のしきい値を導入。これにより、送信者は低い迷惑メール率を達成するために全体的なユーザーエクスペリエンスを重視しなければなりません。これに対応することでメールの開封率が高まり、多くのユーザーに読まれる可能性が高くなります。したがって、手間はかかるものの、セットアップに時間を投資する価値はあります。
法令遵守
今回の更新は、米国のCAN-SPAM法など、メールマーケティングに関する世界的な法的基準にも合致するものです。具体的には、より明確なメール配信停止の仕組みを導入することで、メール配信者が法的要件は遵守し、希望すれば簡単に手配信を停止できる方法を提供することができます。
ユーザーエクスペリエンスの向上
新たな要件の最終的な目標は、全体的なメールユーザーエクスペリエンス(UX)の向上にあります。多くのユーザーが日常的に迷惑メールに悩まされています。迷惑メールをフィルタリングし、正当で関連性のあるメッセージのみを配信するための対策を講じることで、メールのUXが改善されます。
GmailとYahooの新要件
今回の更新の経緯がわかったところで、具体的な変更点を見ていきましょう。なお、今回の更新は1日に5,000通程度のメールを送信する企業に影響を与えます。
認証プロトコル─SPF、DKIM、DMARC
今後、メール配信者はSPF、DKIM、DMARC認証プロトコルを実装する必要があるとされています。
これらのプロトコルは、以下のような目的で使用されます。
- 送信者のドメイン確認
- 転送中のメールの改ざんを検証
各プロトコルの概要は以下のとおりです。
- SPF(Sender Policy Framework):メールが送信者のドメインに対して認可されたIPアドレスから送信されていることを検証
- DKIM(Domain Keys Identified Mail):メールにデジタル署名を付加し、メールが改ざんされていないことを検証
- DMARC(Domain-based Message Authentication, Reporting, and Conformance):SPFとDKIMの上に構築されるプロトコルで、包括的なメール認証を提供し、フィッシングやなりすましからドメインを保護するのに役立つ
迷惑メール率のしきい値
認証だけでなく、利用者が受け取る迷惑メールの量を削減するためにより厳しい迷惑メール判定ポリシーを設けています。今後はメールが確実に配信されるようにするには、迷惑メール率を0.3%未満に維持しなければなりません。
Gmailの場合はさらに低く0.1%です。このしきい値を超えると、メールが迷惑メールと判定されたり、まったく配信されなくなったりする恐れがあります。
配信停止プロセスの簡素化
メール配信者は、配信停止リンクやボタンをヘッダーまたはフッターの目立つ場所に設置し、希望すればユーザーがワンクリックでメールの配信を停止できるようにする必要があります。
隠すように設置したリンクや、配信停止プロセスにおける段階的なアンケートの導入などは禁止されます。
これにより迷惑メールの報告が減り、企業側も法的基準を遵守するようになります。
新要件を無視すると生じる問題
これらのメール配信要件に従わなければ、ビジネスに深刻な影響が及ぶ可能性があります。配信品質の問題による評判の低迷から法的なリスクまで、その範囲は多岐にわたります。
配信性の問題
メールの配信性に以下のような影響を与える可能性があります。
- 迷惑メール判定:新たな認証(SPF、DKIM、DMARC)を実装していない場合は、配信メールが迷惑メールに判定される可能性が高くなります。いずれのプロトコルも送信者の正当性を確認するものであり、実装がない場合には疑わしいメールとみなされ、フィルタリングされてしまいます。
- 配信成功率の低下:迷惑メールに振り分けられることがなくても、受信トレイに届かない可能性もあります。迷惑メール率がしきい値を超える場合は、迷惑メールフォルダに振り分けられたり、完全にブロックされたりしてしまう可能性があります。特にGmailとYahooは低い迷惑メール率の維持を重視しています。
- 配信の失敗:適切なDNSレコードとRFC 5322標準に準拠していない場合は、まったくメールが配信されない可能性もあります。このような技術的な違反はメールサーバーによる拒否につながり、結果として配信に失敗します。
評価の低迷
メールの配信性に加えて、自社の評判を落とす可能性もあります。
- 送信者の評判:メールサービスは、送信ドメインとIPアドレスのレピュテーション(評価)を追跡しており、高い迷惑メール率、配信の定期的な失敗、認証プロトコルの非遵守などがこの評判に悪影響を与えます。レピュテーションスコアが低いと、今後配信するメールがブロックされたり、迷惑メールとして判定されたりする可能性が高くなります。
- キャンペーンへの長期的な影響:レピュテーションの低下は、現在行なっているメールキャンペーンだけにとどまらず、将来のキャンペーンにも影響を与えます。評判の回復には時間がかかり、長期間にわたって対応しなければなりません。そして一度迷惑メールに振り分けられてしまえば、顧客や購読者のとの関係を再構築することは非常に困難です。
法的リスク
コンプライアンスの違反は法的な問題にもつながりかねません。
- CAN-SPAM法への違反:CAN-SPAM法は、特に明確な配信停止プロセスの提供を企業に義務付けています。ワンクリックで配信停止できるリンクが含まれていない、または配信停止依頼に速やかに対応しないなどには、法的処罰を課しています。具体的には、10営業日以内に配信停止の処理を義務付けていますが、GmailとYahooの要件はさらに厳しくなっています。配信停止のプロセスを簡素化し、迅速な対応をとることが不可欠です。
- 罰則と罰金:メールマーケティングに関する法律に違反すると、多額の罰金が科せられる可能性があります。たとえばCAN-SPAM法では、メール1通の違反につき、最大51,744ドル(およそ840万円)の罰金を課しています。違反が繰り返される場合は、訴訟や規制当局のさらなる監視など、より厳しい法的措置につながる恐れもあります。
メール新要件への対応手順
これらの新要件に確実に対応できるよう、具体的な対応手順をご紹介していきます。
ドメイン認証
すでに触れたとおり、メールが迷惑メールに判定されたり、配信拒否されたりするのを防ぐためには、適切なドメイン認証が重要です。
以下ドメインにSPF、DKIM、DMARCを設定する方法をご説明します。
SPFの設定
この手順は、利用しているホスティングサービスやドメインレジストラによって多少異なるかもしれませんが、一般的には以下のようになります。
1. DNS設定にアクセスする
ドメインレジストラまたはDNSサービスにログインし、DNSレコードを確認できるドメイン画面を見つけます。
2. SPFレコードを追加する
DNSレコードを新規追加します。
レコードタイプは「TXT」を選択します。
名前(Name)フィールドにはドメイン名、値(Value)フィールドにはSPFレコードを追加します。通常は以下のようになります。
v=spf1 IPアドレス include:yourmailserver.com ~all
上の「IPアドレス」はメールを配信するIPアドレス(複数可)に置き換えてください。続いて、ホスティングサービスのメールサーバーなど、メールを配信するサードパーティサーバーを指定します。
「~all」で終わらせることで、ISPにSPFレコードに記載されていないサーバーに遭遇した場合にどうするかを指示します。~allタグは、そのメールが 「soft fail」(完全に拒否はしないが疑わしいもの)として分類され、このラベルと共にメールを送信することをサーバーに伝えます。
「-all」を使用すると、ISPはすべての非準拠のメールを拒否するように指示します。
設定を終えたら保存して完了です。
3. 設定を確認する
最後に、このセットアップを確認します(DNSの伝播が反映されるまでには最大24時間かかる場合があります)。SPF Record CheckのようなSPF検証ツールを使用してレコードが正しく設定されていることを確かめます。
DKIMの設定
DKIMを設定するにはDKIM鍵を作成し、DNSにDKIMレコードを追加します。(ログインしていない場合は)ホスティングサービスのコントロールパネルにログインしてください。
1. DKIM鍵を生成する
メールサービスで鍵ペア(公開鍵と秘密鍵)を生成します。これは通常、「詳細設定」や「高度な設定」のようなページにあり、ワンクリックで実行できます。鍵が生成されるまでに時間がかかる場合は、その間に次のステップに進みましょう。
2. CNAMEにDKIMレコードを追加する
DNS設定にアクセスし、CNAMEレコードを追加します。
名前(Name)フィールドには、DKIMセレクタの後に「._domainkey」を貼り付けてください。以下のようになります。
selector1._domainkey.
値(Value)、エイリアス(Alias to)、または指定先(Points to)などのフィールドに公開鍵を貼り付けます。
最後に設定を保存して完了です。
3. DKIM署名を有効にする
メールサービスに戻り、メールサーバーが先ほど生成した秘密鍵で送信メールに署名するオプションを選択します。
DMARCポリシー
これらドメイン認証の実装後には、DMARCポリシーを設定する必要があります。
1. DMARCレコードを作成する
ホスティングサービスのコントロールパネルで、DNS設定を開きます。
TXTレコードの追加に進み、名前(Name)フィールドに「_dmarc」と入力してください。
値(Value)またはレコード(Record)フィールドにDMARCポリシーを追加します。基本的なDMARCポリシーは以下のようになります。
v=DMARC1; p=none; rua=mailto:[email protected]; pct=100; adkim=s; aspf=s
設定を終えたら変更を保存してください。
2. DMARCポリシーを設定する
まずは「p=none」で開始し、監視とデータ収集を監視します。最終的には「p=quarantine」または「p=reject」に変更して、より厳格なポリシーを適用します。
3. 監視と調整
定期的にDMARCレポートを確認し、メールがどのように処理されているかを把握しながら、必要に応じてポリシーを調整します。
最新の配信停止プロセスの導入
最新の要件に準拠するには、ユーザーが希望に応じてワンクリックで配信を停止できるようにすることも重要です。以下、必要な手順をご紹介します。
1. 配信停止リンクを追加する
メールテンプレートの上部または下部に、配信停止リンクをわかりやすく設置します。
クリックすると、ワンクリックで配信停止を実行できるシンプルなページにアクセスできるようにしてください。
2. List-Unsubscribeヘッダーを実装する
メールヘッダーにList-Unsubscribeフィールドを設定します。これはメールサービスの設定で実行できます。以下のようになります。
List-Unsubscribe: <mailto:[email protected]>、 <https://yourdomain.com/unsubscribe>
受信者の受信トレイには、以下のように表示されます。
3. 配信停止機能をテストする
テストメールを送信し、配信停止リンクおよびそのプロセスが正しく動作することを確認します。
また、配信停止のリクエストが速やかに処理されるかどうかもチェックしてください。
メール配信とエンゲージメント向上のヒント
GoogleとYahooが設けた新要件以外にも、メール全体のエンゲージメントと配信性を向上させるためにできることがいくつかあります。
メールコンテンツの最適化
メール配信とエンゲージメントを高めるには、メールコンテンツの最適化が主な課題となります。これには、パーソナライズ、セグメンテーション、関連性のある魅力的なメッセージの作成が求められます。
パーソナライゼーションに関しては、以下のヒントを取り入れてみてください。
- 件名や本文にと受信者の名前を入れる。
- 過去のやり取りのデータを分析し、受信者の関心に合わせてコンテンツをカスタマイズする。ユーザーが特定の商品やトピックに興味を示している場合、類似商品や関連コンテンツを強調する(セグメンテーションが有用)。
- 受信者のプロフィールや行動に基づいて変化する動的コンテンツブロックを活用し、おすすめ商品、関連記事、パーソナライズされた割引などを表示する。
セグメンテーションは、メールマーケティングにパーソナライゼーションを導入する重要な方法の1つで、メール受信者をグループに分類し、それぞれに異なるメッセージを送信します。以下のような方法で受信者を「セグメント」(分類)することができます。
- デモグラフィック:年齢、性別、居住地などの属性情報に基づいてメーリングリストを分類することで、よりターゲットを絞った魅力的なコンテンツを届けることができる。
- 行動:購入履歴や閲覧履歴、メールのエンゲージメントなど、ユーザーの行動に基づいてメーリングリストを分類する(前回のメールで特定のリンクをクリックしたユーザーにフォローアップのメールを送信するなど)。
- ユーザーライフサイクル:新規登録者にはウェルカムメール、既存顧客には特別な割引や特典を送信する。
監視と分析
監視および分析ツールを利用して、マーケティングキャンペーンのパフォーマンスを追跡し、次のキャンペーンについてデータに基づいた意思決定を行うことができます。
今すぐにでも使用をおすすめしたいのが、GoogleのPostmaster Toolsです。一度設定すれば、ドメインのメールパフォーマンスに関する洞察を取得でき、メール配信エラー、迷惑メール率、フィードバックループなどのデータを受信可能です。
また、メール分析プラットフォームでキャンペーンを監視することも重要です。Mailchimp、SendGrid、HubSpotなどのプラットフォームでは、メールパフォーマンスの詳細な分析を取得でき、開封率、クリック率、コンバージョン率などを監視できます。また、件名、メールコンテンツ、CTAボタンのA/Bテストを実施し、読者の関心を最も引くものを理解し、その結果をもとにメールキャンペーンを改善することができます。
低い迷惑メール率を維持するコツ
低い迷惑メール率を維持することが重要になった今、以下のようなヒントも参考にしてみてください。
- 同意を得たコンテンツに関心を持つユーザーにのみメールを送信する。メールやコンテンツに興味のないユーザーのメールアドレスや無効なメールアドレスが含まれていることが多いため、メーリングリストの購入は避ける。
- 有益なコンテンツ、特別割引、役立つ最新情報など、各メールが受信者にとって価値のあるものであるかを確認する。価値の高いメールは迷惑メール判定を受けにくくなる。
- 主要ISPのフィードバックループに登録し、受信者がメールを迷惑メールと判定した際に通知を受けるようにする。この情報をもとに、メールの改善や内容やメーリングリストの整理などを行う。
- 有効でないメールアドレスをリストから定期的に削除することで、高い送信者の評判を維持しバウンス率を減らすことができる。
まとめ
GmailとYahooは、セキュリティと全体的なメールユーザーエクスペリエンスを向上させる目的で、新たなメール配信要件を導入しました。これには、ドメイン認証プロトコル(SPF、DKIM、DMARC)の厳格化、低い迷惑メール率の維持、わかりやすいワンクリックの配信停止オプションの提供などが含まれます。これらの要件に従わない場合には、配信性の低下、評判の低迷、潜在的な法的リスクにつながります。
この記事でご紹介した手順をもとに、適切なドメイン認証の設定方法、メールヘッダーの調整、効果的な配信停止方法の導入などを実行してください。技術的な準備が整ったら、パーソナライゼーションとセグメンテーションを通して、より良いメールコンテンツの作成に専念しましょう。そして、長期的なパフォーマンスの監視もお忘れなく。
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