WordPress Web制作会社にとって、新しい顧客の獲得は大きな達成感があります。しかし、一度契約した後は、優れた体験を提供し、長期的に関係を維持することは同じくらい重要です。

その鍵となるのが、顧客管理と顧客維持です。

効果的な顧客管理がWordPress Web制作会社の収益に欠かせない理由と、クライアントに満足してもらい、Web制作会社の顧客維持率を高めるための11のヒントをご紹介します。

顧客管理と顧客維持とは

本題に入る前に、この2つの用語を簡単に理解しておきましょう。

WordPress Web制作会社における顧客管理とは、顧客との関係を築き、維持するためのあらゆるプロセスや戦略を指します。これには、効果的なコミュニケーション、プロジェクト管理、追加サービスの提案や提供などが含まれます。

Web制作会社における顧客維持とは、長期的なパートナーシップの継続や、単発または定期的な追加サービスの提供を通じて、顧客との関係を長く保ち、満足度を維持し続けることを意味します。

顧客管理と顧客維持が重要な理由

顧客の獲得は、Web制作会社の成功を築くうえで欠かせない要素の一つですが、顧客の管理と維持も長期的な安定経営には同じくらい重要です。

効果的な顧客管理と顧客維持ができなければ、常に新規顧客獲得に追われることになり、パイプラインが途切れた途端に財務状況へ深刻な影響が及びます。

顧客管理と顧客維持に注力すれば、顧客との関係を長く保つことができ、新規顧客の獲得が思うように進まない時期でも収益を確保できます。

以下では、Web制作会社が顧客管理と顧客維持の戦略強化に力を入れるべき主な理由をご紹介します。

顧客満足度を維持する

顧客管理に力を入れる大きな理由の一つは、顧客の満足を確保することです。

多くの顧客にとって、質の高い最終成果物を得ることが最も重要であることに変わりはありませんが、その過程での体験も同じように重視されます。

たとえ最終的な成果物が期待どおりであっても、顧客対応やプロジェクトの進め方が不適切であれば、全体的な体験に満足してもらえない可能性があります。

目的地だけでなく、その過程にも目を向けることで、すべての顧客に自社での素晴らしい体験を提供できます。

より多くの顧客を維持し顧客生涯価値を高める

顧客を管理し維持することも、Web制作会社の収益を伸ばすうえで欠かせない要素です。

顧客との関係を効果的に管理することで、リテーナー契約やその他の追加サービスを提案でき、顧客一人ひとりの生涯価値を高められます。

これらの追加サービスは、 顧客のWebサイトのマネージドクラウドサーバーのような継続的な収益につながるものもあれば、SEO監査やコンバージョン最適化のような単発の追加プロジェクトとなる場合もあります。

顧客管理がうまくできていれば、顧客はこうした追加サービスでも引き続き依頼してくれますが、最初のプロジェクトが不十分だった場合は、他のサービス提供者を探す可能性が高まります。

口コミを活用して新規顧客を見つける

顧客との関係を適切に管理することは、既存顧客の維持につながるだけでなく、口コミによる新規顧客の獲得にも効果的です。

既存顧客と良好な関係を築けていれば、その顧客が属するネットワーク内の他の企業に紹介してもらえる可能性が高まります。

こうした口コミによる紹介は、非常に効果的な顧客獲得手段であるうえ、基本的に無料で行えるため、顧客獲得コストを大きく抑えることができます。

仮に紹介料を支払う場合でも、ほとんどの場合は他の顧客獲得チャネルよりも低コストで済みます。

Web制作会社の顧客維持─11のヒント

それでは、WordPress Web制作会社として顧客との関係を管理し、維持するための実践的なヒントをご紹介します。

1. 初日から長期的パートナーとして位置づける

あなたのWeb制作会社をどのように位置づけるかは、初期段階から顧客の獲得と維持に大きく影響します。

もし自社を(Webサイト制作のような)単発の成果物を納品するだけのサービスとして位置づけてしまうと、顧客は一度きりの依頼を想定して関わることになります。

そうではなく、最初から長期的なパートナーとして位置づけることで、顧客はWebサイト公開後も継続して依頼を続けることを期待してくれるようになります。

例えば、Mooveは「グローバルブランドの成功を支援する」WordPress Web制作会社として自社を位置づけています。このようなポジショニングは、Mooveが単発のサービス提供者ではなく、ブランドにとって長期的なパートナーであるという印象を強めています。

Mooveの公式サイト
Mooveは長期的なパートナーであることを強調

Mooveについて詳しくは、Ilona Filipi氏のインタビュー記事をご覧ください。

この記事で紹介している他の顧客管理のヒントを実践すれば、こうした期待を良好な関係で支えつつ、追加サービスを提案できる立場を確立できます。

2. 適切な期待と目標を設定する

期待値は顧客の満足度に大きく影響するため、適切な設定は顧客管理の重要な要素です。

例えば、ある成果物を2週間で納品するとします。この場合、顧客は満足するでしょうか、それとも不満を感じるでしょうか。

  • 納品まで3週間かかると事前に伝えておけば、実際に2週間で納品したときに期待を上回り、満足につながる
  • 納品まで1週間と伝えていた場合、同じ2週間の納品でも期待を下回り、不満を招く

どちらも納期は同じでも、一方は満足につながり、もう一方は不満につながります。

できる限り予期せぬ問題を見越して、余裕を持ったスケジュールを設定することが大切です。期待を高く設定してそれを下回るよりも、やや控えめに設定して期待を超える方が、良い結果になることがほとんどです。

3. 顧客とのやりとりは友好的かつ積極的に

これは言うまでもありませんが、顧客とのやり取りでは常に友好的で前向きな姿勢を保つことが大切です。

多くの人は、フレンドリーで接しやすい相手と関わることを好みます。親しみやすさと有能さを兼ね備えることは、顧客との関係を良好に保つ上で重要です。

また、テキストでのやり取りでは、相手の口調や意図を読み取るのが難しいことも忘れてはいけません。多くの人は、文章を否定的に解釈してしまう傾向があります。たとえこちらが前向きな意図で書いたとしても、表現に曖昧さがあれば、否定的に受け取られる可能性があります。

そのため、意図したトーンをより明確に伝えるために、少し時間をかけて文章を整えることには十分な価値があります。

4. 定期的な更新と報告

顧客との良好な関係を保つためには、顧客がプロジェクトの進捗を知るためにわざわざ連絡しなければならない状況を避けることが重要です。

そのためには、こちらから積極的に進捗を報告するのが効果的です。

WordPressでWebサイトを構築している場合、状況を定期的に報告するだけでなく、顧客が確認できるライブデモサイトを用意することもできます。また、利用しているプロジェクト管理ツールの直接アクセスを許可する方法もあります。

WordPressのメンテナンスや検索エンジン最適化(SEO)といった継続的なサービスでは、決まったスケジュールで構造化されたレポートを共有するのが有効です。例えば、WordPressメンテナンスの場合、レポートにはWebサイトのパフォーマンス、更新状況、バックアップトラフィックデータなどを組み込めます。

多くのSEOツールやWordPressメンテナンスツールには、顧客向けのレポートを自動生成する機能が備わっています。

例えば、Ahrefsには自動SEOレポート機能があります。Looker Studioを使った作成されたAhrefsレポートの例もあわせてご覧ください。

Ahrefs SEOレポートの例
WordPress Web制作会社が顧客に提供できるSEOレポートの例

顧客に情報を提供するだけでなく、このようなレポートや進捗アップデートは、自社の価値を示すうえでも有効です。

もし顧客が定期的な進捗報告やレポートを受け取れなければ、「実際には何もしていないのでは」と感じられ、支払った費用が無駄だと思われてしまう可能性があります。

一方、レポートやアップデートを継続的に提供すれば、行っている業務や成果を明確に示すことができ、提供価値をしっかり伝えることができます。

5. 質の高い継続型サービスを提供する

質の高い継続型サービスの提供は、顧客と強固で長期的な関係を築くうえで最も効果的な方法の一つです。

WordPress Web制作会社にとって、基本的なサービスの一つが顧客のWebサイト運用です。特に、高品質なマネージドクラウドサーバーを提供することは、継続的な収益源の確保につながるだけでなく、顧客との長期的なパートナーシップをより強固なものにします。

顧客のWebサイトに信頼性が高く高速なサーバー環境を提供すれば、自然と長期的な取引関係を築けます。一般的に「囲い込み」にはネガティブな響きがありますが、常に顧客の期待を上回るサービスを提供できるのであれば、それはむしろ顧客にとってプラスとなります。

例えば、BSharp TechnologyWordPressサイトをKinstaのWeb制作会社向けマネージドクラウドサーバー移行した際、Kinstaによるパフォーマンスの向上が顧客との関係強化に大きく貢献しています。

また、Cosmick Mediaは、顧客のWebサイトをKinstaに移行したことで、顧客維持率が30%向上したと述べています。

KinstaのWordPress Web制作会社向けプラン
Kinstaは、WordPress Web制作会社にぴったりの専用マネージドクラウドサーバーを提供

6. 顧客のライフサイクルに合わせて追加サービスを組み立てる

前述のポイントを踏まえると、追加サービスの提供を顧客維持のツールとして活用できます。というのも、顧客が契約初期には必要としていなかったサービスが、関係が進む中で重要になることがあるからです。

例えば、コンバージョン率最適化(CRO)を提供する場合、Webサイト公開直後に提案するのは必ずしも最適な戦略とは言えません。むしろ、サイト運用がある程度進み、データが蓄積されてから提案するほうが効果的です。

このライフサイクルモデルに適した他のサービスには、SEO、コンテンツ制作、マーケティング自動化(HubSpotやSalesforceの導入など)、SNSマーケティングなどがあります。

こうしたサービスを最適なタイミングで提供することで、各サービスが前の成果を基盤として積み重なり、長期的な関係を築きやすくなり、顧客維持にも直結します。

7. 顧客のコミュニケーションの好みに合わせる(合理的と思われる場合)

プロジェクト中のコミュニケーション方法は、顧客によって異なります。メールでのやり取りを好む顧客もいれば、電話での連絡を望む顧客もいます。

可能であれば(かつ合理的であれば)、顧客の希望に合わせることが大切です。

まずは、顧客がメールなどの非同期型コミュニケーションを好むのか、それとも電話やビデオ会議のような同期型コミュニケーションを好むのかを把握しましょう。

非同期型コミュニケーションの場合、次の点を確認します。

  • 顧客はメール、チャット、またはプロジェクト管理ツール上でのコメントなど、どの手段を好むのか
  • どの程度のレスポンス速度を期待しているのか

同期型コミュニケーションを好む場合は、次の点を明確にしておきます。

  • 電話、ビデオ会議、その他の手段のどれを好むのか
  • どの時間帯にコミュニケーションを取りたいのか
  • 短時間で簡潔に済ませたいのか、それともじっくり時間をかけて話し合いたいのか(顧客によっては5分程度の確認を希望する場合もあれば深い議論を好む場合もある)
  • どのくらい前から予定を組みたいのか(毎週同じ時間に行いたいのか、それともスケジュールに合わせて柔軟に変えたいのか)
  • 同期通話のスケジュールを組みやすくするために、Calendlyなどの予約ツールを利用しているか

もちろん、自分自身の業務範囲や時間の制約も守る必要があります。「合理的であること」はここでも重要です。たとえ顧客が望んだとしても、土曜の夜9時に進捗確認の電話を設定するようなことは、ほとんどのケースで避けるべきでしょう。

8. タイムラインや問題について透明性を保つ

問題や遅延は、ほとんどすべてのプロジェクトで起こり得るものであり、多くの場合は自分のコントロール外で発生します。

ただし、遅延や問題そのものは制御できなくても、それにどう対応するかは自分の手の内にあります。

最も効果的な対処法は、顧客に対して透明性を保つことです。できるだけ早く状況を報告し、次の点を明確に伝えましょう。

  • 問題の内容

  • なぜその問題が発生したのか

  • どのように解決するのか

  • プロジェクトのスケジュールにどのような影響があるのか

場合によっては顧客が完全に満足しないこともありますが、それでも情報を隠そうとするより、ずっと良い結果につながります。

9. オンボーディングを構造化し時間を節約

顧客のオンボーディングは、期待値の設定やコミュニケーションの好みなど、この記事で紹介している他の多くのヒントを実践する場にもなるため、顧客管理において最も重要なステップの一つとなり得ます。

オンボーディングをできるだけ効率的に進めるために、以下のことを達成できるような構造化されたプロセスを用意しましょう。

  • 顧客の目標を明確に書き出す:事前に話し合って契約書に記載している場合でも、全員が同じ認識を持てるよう、一か所にまとめておくと良い
  • 必要なログイン情報や権限をまとめて入手する:あらかじめ揃えておくことで、作業中にアクセスのたびに依頼する必要がなくなり、プロジェクトの遅延や管理の煩雑さを防げる
  • オンボーディングアンケートを送る:希望する連絡手段や空き時間など、顧客管理プロセスを改善するための詳細情報を収集できる
  • 顧客をワークフローに組み込む:プロジェクト管理ツールへのアクセス権を付与し、リアルタイムでやり取りできるチャネルに招待する
  • タイムラインとコミュニケーションの期待値を設定する:前もって明確かつ透明性のある形で共有し、後のトラブルや誤解を防ぐ

10. 積極的にフィードバックを求め状況を把握

顧客が自ら問題を持ち出すまで待ってしまうと、その時点で状況がすでに悪化しており、十分に対処できない可能性があります。

顧客対応の盲点を作らないためにも、こちらから積極的にフィードバックを求め、改善の余地を探りましょう。

以下は、質問例の一部です。

  • 弊社でのご経験に満足されていますか?
  • プロジェクトは期待に沿っていますか?
  • コミュニケーションの頻度や質はいかがですか?常に最新情報をお届けできていると感じますか?
  • サービス体験をより良くするために、改善できる点はありますか?
  • 弊社の業務プロセスは、お客様のビジネスプロセスに適していますか?
  • プロジェクトに関する情報提供は迅速かつ透明性が高いと感じますか?

こうした質問は直接メールで送ってもよいですし、WordPressのフォームビルダーアンケートプラグイン、またはSaaS型のアンケートツールを使って、構造的なアンケートフォームとして送信することもできます。

11. ツールを使って顧客との関係を管理する

上記のヒントはどれも特定のツールに依存しませんが、顧客を効果的に管理・維持するためには、適切なツールを活用することが重要です。

一般的には、次のいずれか、または複数のツールが必要になります。

  • 顧客関係管理(CRM)WordPress対応のCRMプラグインを利用する方法もあれば、HubSpotClientjoyといったSaaS型CRMを導入する方法もあります。
  • プロジェクト管理ツール:プロジェクト管理ツールは、チーム内の整理だけでなく、顧客への進捗共有にも役立ちます。WordPress対応のプロジェクト管理プラグインTrelloやAsanaなどのSaaSツール、あるいはTrelloの代替ツールも選択肢です。
  • 請求・請求書作成:スムーズでシンプルな請求フローは、顧客管理において重要な要素です。WordPressの請求書作成プラグインやSaaS型の請求書作成ツールを利用する方法のほか、StripeやSquareなどの決済サービスに備わる請求書機能を直接活用しているWeb制作会社も多くあります。
HubSpotの公式サイト
HubSpotはWeb制作会社の顧客維持に便利

また、WP Feedbackのようなプラグインを使えば、顧客がWebサイト上で視覚的にフィードバックを送信できます。これは、WordPressのWebサイト制作プロセスに参加してもらう優れた方法です。

まとめ

顧客の獲得は、WordPress Web制作会社を運営するうえで欠かせない要素ですが、顧客の管理と維持も成功するWordPress Web制作会社を築くうえで同じくらい重要です。

顧客を適切に管理し、長期的な関係を維持できれば、マネージドクラウドサーバーなどの追加サービスを提案する機会が生まれ、一人ひとりの生涯顧客価値を高められます。さらに、満足度の高い顧客は他者にあなたの会社を推薦してくれる可能性が高く、価値の高い口コミによる紹介につながります。

顧客にマネージドクラウドサーバーを提供する際、Kinstaがどのように顧客管理を効率化できるか知りたい方は、KinstaのWeb制作会社向けWordPress専用マネージドクラウドサーバーをご覧ください。

Steve Bonisteel Kinsta

Kinstaのテクニカルエディター。救急車や消防車を追いかける記者としてキャリアをスタート。1990年代後半からインターネット関連の技術情報を担当している。