PaaS(Platform-as-a-Service)は、サーバー、ストレージ、ネットワークインフラに加えて、アプリのデプロイに必要なソフトウェアを組み合わせた概念です。PaaSを使えば、オンプレミスハードウェアへの投資や、アプリを動かすための仮想環境の構築に頭を悩ませる必要はありません。

2020年末までに、企業の85%近くが、主要な業務をクラウドに移行すると予測されています。こうした企業は、クラウド上のデータを活用してマーケティングをパーソナライズしたり、部門間で戦略的なデータを共有することができ、情報のサイロ化を防ぐことが可能です。

PaaSは、これらの取り組みを支えるためのツールをまとめて利用できる環境を確保するのにうってつけです。

この記事では、PaaSの概要、具体的な事例、主要なPaaSプロバイダーの市場シェアなどを紹介します。

PaaSとは(実例とともに)

PaaS(Platform-as-a-Service)とは、クラウド上でハードウェアとソフトウェアのツールをパッケージ化し、アプリの開発やデプロイを容易にする仕組みです。

例えば、AWS Elastic Beanstalkは、複数のプログラミング言語や環境をサポートする、プラグアンドプレイ型のサービスです。これにより、異なるプラットフォームやデバイス向けのアプリケーションを簡単にデプロイし、スピーディーにテスト、立ち上げ、スケーリングできます。

AWS Elastic Beanstalk
AWS Elastic Beanstalk

アップロードしたコードを自動でデプロイし、ロードバランシングやオートスケーリング機能を備えているため、アプリを常に安定した状態で稼働させることができます。

Google App Engineも、アプリケーションデプロイに特化したPaaSの一例です。

Google App Engine
Google App Engine

あらゆるプログラミング言語でアプリをデプロイできるだけでなく、アプリの診断、バージョン管理、A/Bテストなどの機能も利用可能です。

これらのサービスは、ストレージや仮想マシンのレンタルとはまったく異なります。PaaSは、アプリを本番環境で動かすための、完成されたプラットフォームとして機能します。

一方で、ハードウェアのみのレンタルはPaaSではなく、IaaSに分類されます。

この2つの違いを詳しく見ていきましょう。

IaaSとPaaSの違いとは

IaaS(Infrastructure as a Service)は、仮想マシンやスケーラブルなストレージなど、クラウド上でハードウェアリソースを利用する仕組みです。これに対し、PaaSにはアプリケーションをデプロイするためのソフトウェア環境が含まれます。

どちらもクラウドサービスの一種ですが、用途やターゲットは異なります。

さらにややこしいことに、多くのPaaSプロバイダーはIaaSの機能も提供しており、その逆もあります。

混乱を避けるために、実際のサービスを比較してみましょう。

PaaSの例 IaaSの例
AWS Elastic Beanstalk AWS EC2
Google App Engine Google Compute Engine (GCE)
Microsoft Azure App Service Microsoft Azure Storage
IBM Cloud Foundry IBM Cloud Virtual Servers
DigitalOcean App Platform DigitalOcean Droplets
Heroku Rackspace、Linode

例えば、AWSのEC2インスタンスを使ってWebアプリのデータを保存する場合、それは単にクラウドインフラを利用しているだけで、IaaSに該当します。

一方、AWS Elastic Beanstalkを使ってWebアプリをデプロイすると、PaaSの利用になります。Elastic Beanstalkは、S3、EC2DynamoDBといったAWSのインフラを組み合わせ、すぐに使える開発環境を提供します。

ここが大きな違いです。

PaaSはアプリの開発とデプロイを簡単にするパッケージ型のソリューションであり、IaaSは最低限のクラウドインフラを提供するサービスです。

これは、サーバー環境(PHPやMySQLなど)を自分でセットアップする必要がある従来型のホスティングと、アプリケーションデータベースを含むWordPress専用マネージドクラウドサーバー(Kinstaなど)との違いに似ています。

なお、AWSやGoogle、Microsoftといった大手ベンダーでは、リソースの使用料のみが計算され、プラットフォームそのものの利用料は発生しない場合もあります。

SaaSとPaaSの違いとは

SaaS(Software as a Service)は、カスタムアプリを開発・デプロイするための基盤ではなく、完成済みのソフトウェアを提供します。

例えば、Salesforceのようなクラウド型CRMは、プログラミング不要で顧客データやワークフローを管理できます。

Salesforceのダッシュボード
Salesforceのダッシュボード

サインアップすれば、すぐに使い始められるのがSaaSの特徴です。

一方、PaaSで同様のことを実現するには、カスタムアプリを開発するか、同等の機能を持つオープンソースソフトウェアをデプロイしてカスタマイズする必要があります。

この違いをさらに明確にするため、具体例を見てみましょう。

クラウドサービスの種類
SaaS Google Workspace、Microsoft Dynamics CRM、IBM Watson Assistant、Salesforce、Workday、Slack
PaaS AWS Elastic Beanstalk、Google App Engine、Microsoft Azure App Service、Heroku、IBM Cloud Foundry

SaaS製品は、アカウントを作成すればすぐに利用できます。例えば、Google Docsなら登録後すぐにドキュメントの作成・保存・共有を始められます。

一方、Google App EngineやIBM Cloud Foundryは、ビジネス上の課題を解決する完成済みアプリではなく、カスタムアプリを構築できるクラウド基盤です。

ほとんどの企業は、SaaS(Kinstaでも40以上のSaaS製品を利用中)とPaaSを組み合わせて業務を運営しています。どのソリューションが適しているかは、ユースケースや既存のインフラによって異なります。

PaaS市場の規模、シェア、主要ベンダー

PaaS市場の規模や、他のクラウドサービスとの比較は、参照するデータソースによって異なります。

例えば、Gartnerの予測では、2021年のPaaS売上は275億ドルに対し、IaaSは619億ドルとされています。

パブリッククラウド市場シェア(出典:Gartner)
パブリッククラウド市場シェア(出典:Gartner)

このデータでは、IaaSの市場はPaaSの2倍以上です。IaaSがクラウド市場全体で主要な位置を占める一方で、PaaSはまだニッチという位置付けです。

しかし、別の調査では違う結果が示されています。

IDCのデータによると、2019年の売上は、IaaSが490億ドルに対し、PaaSは359億ドルと、かなり接近しています。

世界のパブリッククラウドサービス市場の成長(出典:IDC)
世界のパブリッククラウドサービス市場の成長(出典:IDC)

IaaSは前年比38.4%増、PaaSは38.8%増と、どちらもほぼ同じペースで成長しています。

PaaSはまだIaaSとの差を大きく縮めてはいないものの、後れを取っているわけでもありません。

クラウドサービス各カテゴリの市場シェアは、定義や調査範囲によって変わります。IDCでは、管理やセキュリティ、ビジネスプロセス関連サービスを含めていません。

そのため、SaaSやPaaSのシェアがより大きく見えるケースもあります。

主要ベンダーと市場シェア

2016年以降、調査会社や専門家は、IaaSとPaaSを合わせてパブリッククラウド市場として分析するケースが増えました。

2019年パブリッククラウドサービス市場シェア(出典:IDC)
2019年パブリッククラウドサービス市場シェア(出典:IDC)

理由のひとつは、主要なプレイヤーが両方のカテゴリに共通しているためです。

IaaS市場でもPaaS市場でも、Amazon、Google、Microsoft、IBMといった名前が並びます。

もうひとつの理由は、こうしたリーダー企業がIaaSとPaaSの両方をバンドルして提供するため、収益を分けるのが難しいことです。

例えば、AWSの収益には、Elastic BeanstalkのようなPaaS環境が含まれますが、利用者はリソース使用量に対してのみ料金を支払うため、プラットフォーム部分とインフラ部分を分離するのが困難です。

PaaSとIaaSの収益シェア(出典:Statista)
PaaSとIaaSの収益シェア(出典:Statista)

Statistaによると、AWSのシェアは現在24.3%で、2位のIBM Cloud(16%)を大きく引き離しています。

Google Cloudのシェア7.4%で、Microsoft Azure7%をわずかに上回っています。グローバル市場では、この4社が圧倒的なリーダーであることは明らかです。

この4社だけで、IaaSとPaaS収益の54%以上を占めています。

米国の大手に続くのは、中国のAlibaba(4.4%)、日本のNTTデータ(2.8%)です。

IaaSもPaaSも、世界的には米国企業が主導する分野であり、AWSはその中心的存在として成長を続けています。

PaaSサービスの具体例

PaaSの代表的なユースケースはWebアプリのデプロイですが、ほかにも多くのクラウドサービスがPaaSに含まれます。

詳しく見ていきましょう。

データベース・アズ・ア・サービス(DBaaS)

仮想マシンにデータベースを手動でインストールするのはIaaSの実装に過ぎません。

PaaSとして分類されるには、ストレージ、コンピューティングリソース、リレーショナルデータベースなどを統合したソリューションである必要があります。

その一例がAzure SQL Databaseサービスです。自動アップデート、スケーラビリティ、脅威対策、AI活用の検索機能を備えた完全マネージド型データベースとなっています。

Azure SQL Database
Azure SQL Database

このタイプのサービスは、PaaSのサブカテゴリであるDBaaSとも呼ばれます。

モノのインターネット(IoT)プラットフォーム

現在、膨大なデバイスがコンピュータで制御され、インターネットに接続されています。新しいHTTP/3規格は、その加速を後押しするものです。接続デバイスには、照明やサーモスタット、オーブン、洗濯機、鍵、車のエンジンなどがあります。

ネットワーク接続自体はIaaSの領域ですが、デバイス間でデータを管理・共有する複雑なAPIはPaaSに分類されます。

モバイルサービス(API)

企業は、顧客とのやり取りにおいて、メールだけでなくSMSなどの多様な方法を活用しています。

SMS APIを使えば、アプリケーションに通知機能を簡単に組み込めます。

例えば、次のような通知が可能です。

  • 予定されている電話やミーティングのリマインダー
  • 新しい関連製品やサービスの案内
  • 最近のカスタマーサポートへのフィードバック依頼
  • 事例紹介やアンケート参加の呼びかけ

このようなサービスは、CPaaS(Communications Platform as a Service)として別カテゴリに分類される場合もあります。

プッシュ通知API

SMSと同様に、ブラウザやモバイルでのプッシュ通知をサポートするAPIもあります。

例えば次のような用途があります。

機械学習(ML)

データをクラウドに保存するだけでは意味がありません。分析・予測のためにはアルゴリズムが必要です。

クラウドベースの機械学習プラットフォームを使えば、テンプレートからモデルを構築、データベースに適用し、計算能力を拡張できます。

IBM Watson Studio
IBM Watson Studio

例えば、IBM Watson StudioではAIモデルのライフサイクルを自動化し、ワンクリックでデプロイ可能です。

こうしたAI活用は、主要クラウドベンダーのPaaS戦略の中心に位置付けられます。

Hadoop、Spark、その他のデータ処理フレームワーク

Apache Hadoopは、分散クラスタでビッグデータを処理するオープンソースフレームワークです。

ゼロから構築する代わりに、PaaSサービスを通じて利用できます。

  • GoogleはHadoopをDataprocサービスに統合
  • MicrosoftはHDInsightでHadoopを提供
  • IBMはBigInsightsにHadoopを組み込み
  • AWSはEMRでHadoopとSparkを提供

これらの企業は、Hadoop以外にもカスタムデータレイクや処理サービスを提供しています。

人気のPaaSサービス

多くのクラウドソリューションがPaaSとして提供されています。パブリッククラウド利用に関する2020年の調査を見てみましょう。

人気のクラウドサービス(出典:Flexera)
人気のクラウドサービス(出典:Flexera)

クラウド型リレーショナルデータベースが最も利用されており、67%の企業が導入済み、17%が試験導入中、10%が導入を計画しています。

3位はデータウェアハウスで、53%の企業がビッグデータ分析に利用しています。

Google Cloud BigQueryは、このカテゴリの代表例です。

主要PaaSサービス5選

ここまでクラウドサービスの基本と、PaaSがIaaSやSaaSとどう異なるかを見てきました。

次に、主要PaaSプロバイダー5社が提供するサービスを紹介します。

Sevalla

SevallaはKinstaが開発したPaaSで、インフラ管理を気にせず、高速なデプロイとスケーリングを実現したい開発チーム向けに設計されています。

Sevallaの基盤は、Google Kubernetes Engine (GKE)によるコンテナオーケストレーションと、Cloudflareのグローバルエッジネットワークを組み合わせています。

GitベースのデプロイやDockerfile、コンテナイメージを標準サポートし、Next.js、Laravel、Python、Goなど幅広いフレームワークや言語に対応します。

Sevallaアプリケーション概要ページ
Sevallaアプリケーション概要ページ

Sevallaは利用ベースの料金体系で、プラン制やシート課金、機能制限はありません。

提供サービスの概要は次のとおりです。

PaaSサービス Sevalla
アプリデプロイ Gitデプロイ、Dockerfile対応、プレビュー環境、Buildpack/Nixpacks
ビッグデータ処理 ✗ 提供なし
データウェアハウス ✗ ネイティブ未対応
DBaaS マネージドPostgreSQL、MySQL、Redis、MariaDB、Valkey、プライベートネットワーク
通知(SMS、メール) ✗ 組み込みなし(外部API連携で対応)
機械学習 ✗ ネイティブなし(アプリ側でカスタム対応可能)
オブジェクトストレージ Cloudflare R2(S3互換)
静的サイトホスティング Gitデプロイ+プレビュー環境付き

Sevallaは、DevOpsなしで柔軟なインフラ制御を望む開発者に適した選択肢です。シンプルでわかりやすい操作で、Webプロジェクトをスピーディーに立ち上げ、拡張できます。

Sevallaの特徴は、スピード、シンプルさ、透明性です。小規模サイトから複雑なSaaSまで対応でき、50ドルのクレジットですぐに利用開始できます。

AWS

AWSは2006年、EC2サービスでクラウド業界に革命を起こしたリーディングカンパニーです。

以降も世界最大のクラウドサービス事業者であり続けています。

PaaS分野でAWSが提供するサービスを見てみましょう。

AWSのサービス概要
AWSのサービス概要
PaaSサービス AWS
アプリデプロイ Amazon Elastic Beanstalk
ビッグデータ処理 Amazon EMR
データウェアハウス Amazon Redshift
DBaaS Amazon Aurora、Amazon RDS
通知 Amazon SNS(SMS、メール、プッシュ)
機械学習 Amazon SageMaker

AWSは、サーバー提供を超え、アプリのデプロイ、ビッグデータ、DBaaS、機械学習まで幅広くカバーするPaaSサービスを揃えています。

IBM Cloud

IBMは2014年、BluemixとしてPaaSを開始し、現在はIaaSと統合したIBM Cloudを展開しています。

IBM Cloud製品概要
IBM Cloud製品概要
PaaSサービス IBM Cloud
アプリデプロイ IBM Cloud Foundry
ビッグデータ処理 IBM BigInsights
データウェアハウス IBM DB2
DBaaS IBM Cloud Databases(Redis、PostgreSQLなど)
通知 IBM Push Notifications(SMSは外部API)
機械学習 IBM Watson Studio

IBMは、特にAI・機械学習に強みを持ち、Watson Studioでデータ解析とモデル運用をサポートします。

Google Cloud

GoogleはSaaSの代表企業でありながら、PaaS分野でも強力なサービスを提供しています。

Google Cloud製品の概要
Google Cloud製品の概要
PaaSサービス Google Cloud
アプリデプロイ Google App Engine、Google Kubernetes Engine
ビッグデータ処理 Google Dataproc
データウェアハウス Google BigQuery
DBaaS Google BigTable、Google Cloud SQL
通知 Firebase Cloud Messaging(プッシュ、アプリ内)
機械学習 Google AI Platform

Googleは、データ分析やAIに特化した強力なPaaS基盤を提供します。

Microsoft Azure

Azureはマイクロソフトが提供する統合型クラウドで、IaaS・PaaS双方に対応しています。

Azure製品概要
Azure製品概要
PaaSサービス Microsoft Azure
アプリデプロイ Azure App Service
ビッグデータ処理 Azure Databricks
データウェアハウス Azure SQL Data Warehouse
DBaaS Azure SQL Database
通知 Azure Notification Hubs、Azure Communication Services
機械学習 Azure Machine Learning

Azure App Serviceは、組み込みのパッチ適用、セキュリティ、スケーリング、および多数の統合により、アプリのデプロイを容易にします。

データウェアハウスや小規模データベースのようなSQLベースのさまざまなソリューションでデータを保存し、処理することができます。そして、Azure Machine Learningを使用して、データを理解するためのモデルを作成し、デプロイすることが可能です。

Azureはまた、アプリへの自動プッシュ通知やSMS通知の組み込みもサポートしています。

まとめ

PaaSは、組織全体でのデータ活用を支えるために、コンピューティングパワーやインフラを提供するだけでなく、リアルタイムでアプリを構築・運用する環境づくりに寄与します。

環境構築にかかる時間や手間を減らし、ウェブサイトやサービスにPaaSの強みを取り入れるには、Kinstaの無料移行サービスをご利用ください。KinstaのWordPress専用マネージドクラウドサーバーは、Google Cloudの最新インフラを活用しており、複雑な設定を行う必要はありません。

PaaS製品やサービスに関するご質問や体験談があれば、ぜひコメント欄でお知らせください。

Salman Ravoof

独学のウェブ開発者、ライター、クリエイターでもあり、大の無料オープンソースソフトウェア(FOSS)好き。その他の好きなものは、科学、哲学、写真、芸術、猫、そして食。詳しい仕事情報はウェブサイトおよびXアカウントで公開している。