事業を運営する以上、その発展や成長は誰もが望むもの。今日のインターネット時代において、世界を見据えた海外進出の参入障壁はこれまで以上に低くなっています。
とは言え、地理的な条件を考慮し、マーケティング戦略を柔軟に展開しなければ、新たな市場での成功は望めません。世界中で顧客を獲得するには、画一的な戦略では通用しません。市場によって、価値観や嗜好、そして言語すら異なります。したがって、マーケティングのローカライゼーションは重要な役割を担います。
単にコンテンツを機械翻訳して提供するのがローカライゼーションではありません。日本で初めてサービスをローンチしたときと同じように、対象となる国や地域の市場を調査し、それに調和したユーザー体験を提供しなければなりません。
時間をかけてローカライゼーションを綿密に計画しなければ、海外進出が失敗に終わる可能性も。そこで今回の記事では、ローカライゼーションとは何か、そしてどのようにローカライゼーションを実施すればグローバル市場で事業を成功させることができるのか、という点を詳しく見ていきます。
早速、本題に入りましょう。
ローカライゼーションとは
ローカライゼーションとは、日本語に翻訳すると「現地化」という意味です。コンテンツやサービスを現地の言語や文化に適応させることを言います。世界には、多様な嗜好、価値観、言語が存在するため、事業のグローバル展開にローカライゼーションは欠かせません。
日本国外のオーディエンスには、市場性がありながら個性もあり、なおかつ的を射た方法で製品やサービスを宣伝しなければなりません。例えば、米国で人気のあるサービスであっても、ヨーロッパ、アジア、カナダなどでも同じように展開できるとは限りません。
その理由は、世界には多種多様な文化が存在し、それぞれに適したマーケティング戦略が求められることにあります。パーソナライゼーションは、顧客へのサービス提供において、非常に重要な要素ですが、顧客一人ひとりの行動を考慮し、パーソナライズしたコミュニケーションを提供している企業は、わずか47%しかないと言われています。
例えば、露出度の高い米国のモデルを多数起用したマーケティングコンテンツは、インドのような比較的保守的な社会では決して受け入れられません。インドで同じキャンペーンを実施すれば、多くの人が不快に感じ、「やり過ぎな企業」と認識されてしまう可能性すらあります。
ローカライゼーションを適切に行うことで、徹底的な調査で得られたデータを活かし、さまざまな地域で自社の製品をアピールすることができます。そして、現地の利用者に寄り添った体験を提供し、心を捉えるマーケティング戦略で製品やサービスを販売できます。
これによって、日本の顧客とは異なる需要やペインポイント(潜在顧客が抱える悩みや問題)に対応しなければならない可能性があります。ニーズは市場によって異なるもの。想定顧客が何を求めているのか、なぜそれが必要なのか、そしてどのように自社製品がそれに応えることを伝えられるかを導き出すのが、マーケターや経営者の仕事です。
また、ローカライゼーションには、既存のコンテンツを別の言語に翻訳することに加えて、オンラインプレゼンスの強化も含まれます。全く異なるユーザー層に向けて、インターフェース、画像、サポートの提供方法、支払いゲートウェイなど、顧客を考慮したウェブサイトの他の要素を変更することも必要になるかもしれません。
基本的には、国ごとに専用のウェブサイトを立ち上げ、メインドメインの「.com」を各ページにリダイレクトするのが一般的です。なお、ウェブサイトが常に稼働している状態というのが前提になるため、信頼性の高いアプリケーションホスティング、データベースホスティング、WordPress専用マネージドホスティングを利用しましょう。
ローカライゼーションの必要性
グローバル市場に進出するには、適切なローカライゼーション戦略が必要です。ローカライゼーションは、海外進出の成功に必要不可欠であるため、ここは手を抜かずにじっくりと計画を立てましょう。
ローカライゼーションの工程を何から何まで自動化してしまうのは、効果的とは言えません。ローカライゼーションには、人の手の介入が必要であり、継続的な監視も必要です。適切に進めなければ、新たな市場の潜在顧客を取りこぼしてしまう恐れがあります。
第一印象はブランドの評判を大きく左右します。出だしで躓けば、信用を取り戻す機会が二度と訪れない可能性も。
もちろん、海外進出を予定していないのであれば、ローカライゼーションは必要ありません。ローカライゼーションは、時間と費用がかかるため、日本国内のユーザーにターゲットを絞るのであれば、今回取り上げるような戦略は不要です。
では、世界への事業拡大を目指す企業にとって、ローカライゼーションがこれほど重要になるのはなぜでしょうか。
まず何より、ローカライズの施されたコンテンツは、対象となる地域の人々の心を掴みます。そして、マーケティング戦略もその土地の文化や嗜好に合わせて変更することで、誰かを傷つけたり、不快にさせたりするのを防ぐことができます。
ローカライゼーションのメリット
ローカライゼーションを行う最大のメリットは、世界中の潜在顧客に向けて事業を戦略的に拡大することができる点です。詰まるところ、自社の知名度と収益の向上につながります。
ローカライゼーションによって、先ほどの米国とインドの例のように、文化的に不適切な混乱を回避することができます。新たに進出する市場で、ユーザーに悪い印象を与えるのは、何としても避けたいものです。
また、手間隙かけた翻訳を行うことで、日本語を母国語とする既存顧客と同じように、他国のオーディエンスが母語で自然にコンテンツを閲覧することができます。これを怠れば、訪問者に敬遠され、違法な企業や詐欺団体と怪しまれてしまうかもしれません。
また、ローカライゼーションには、徹底的な情報収集が欠かせません。これは、その国に住むユーザーの様々なペインポイントを理解するのに役立ちます。たとえ製品の使用方法は同じでも、なぜそれが必要なのかという根本的なニーズが異なることがあります。
マーケティングにおいては、ターゲットとする同じユーザー層に向けてマーケティングを行う他の企業を参考にするのが得策です。そうすることで、新規顧客と自然につながりながら、世界で有益なブランドロイヤリティを築いていくことができます。
当然ながら、周到に計画したローカライゼーションの大きなメリットは、この努力がそのまま自社の成功に直結することでもあり、事業を新たな市場に展開すれば、さらなる収益が期待できます。
さらに、日本国内の競合他社を超えた展開が可能になり、日本だけでなく世界の数々の企業に対して競合力を発揮することができます。
ローカライゼーションの実施方法
ワークフローの構築
ローカライゼーションの計画は、ワークフローの構築から始めることをおすすめします。開始から終わりまで、詳細に計画を立て、何から始め、どこに到達したいのかを明確化します。
これを行うことで、各ステップが見えてきます。
また、どの地域に事業を拡大するのか、そのために何をすべきかもこの段階で決定しましょう。簡単に言えば、事業拡大の道筋を示すロードマップを作成します。
いつまでに翻訳を発注すればいいのか、どのようなスタイルガイドを導入するのか、そしてその地域の潜在顧客の要望を満たすためにどのように品質保証を行うのか。
このような点は、事業拡大を進める前に考慮しておきましょう。
また、予算の設定もお忘れなく。海外進出に際して、どのくらいまで予算を組むことができるか、そして実際に実現可能であるかを検討します。予算的に厳しい状況であれば、十分な予算が確保できるまで、ローカライゼーションの計画は保留にしておくほうが良いかもしれません。
オーディエンスの理解
マーケティングを行う前に、まずはオーディエンスを理解し、求めているもの、また逆に必要としていないものを把握しなければなりません。
世界各地の潜在顧客が抱えている問題とは何か。現在日本でマーケティングしているペインポイントと比較しつつ、異なるペインポイントを効果的にマーケティングに取り入れる方法を検討しましょう。
また、その国のユーザーは、どのようなコンテンツを最も好んでいるかもチェックしましょう。例えば、Facebookが最も人気の高いプラットフォームであれば、マーケティング活動をFacebookで展開するのがベストです。YouTube動画であれば、YouTubeでのコンテンツ配信に力を入れましょう。
最後に、日本と事業拡大先の国の文化の違いも調査してください。差別的または不適切にあたる言葉や表現がないか。既存のウェブサイトのインターフェースやマーケティング資料を現地の価値観に適応させることは可能なのか。もしくは、ゼロからの構築が必要になるかもしれません。
目的とKPIの設定
ローカライゼーションの各ステップが、最終的な目標に通じるものであることを確認しましょう。ローカライゼーションの目的とKPI(重要業績評価指標)を事前に設定し、それに対するアクションを評価することが重要です。
どのような目標を達成しようとしているのか、軸がぶれないように常に注意を払いましょう。最終的な目標に照準を合わせ、一歩ずつ着実に進んでいくことが重要です。
シンプルなワークフローを心がける
ローカライゼーションは大規模なプロジェクトですが、ワークフローが複雑になりすぎないように気をつけましょう。
プロジェクトに携わる各メンバーに対し、誰がどのような仕事を担当するのか、具体的な役割を与えましょう。また、新たな市場について可能な限り調査を行い、計画を立てる際に情報を参照できるようにしておくこと。そうすることで、効率的なローカライゼーションの実施方法を導き出せるはずです。
ローカライゼーションで考慮すべき12のこと
1. 生身の人間による翻訳
ローカライゼーションにおいて、コンテンツを現地の言語に翻訳することは非常に重要です。特に、日本語から他言語に翻訳する場合は、より複雑になります。
しかし、言葉の壁を理由に、潜在顧客を排除するようなことがあってはなりません。マーケティング戦略を現地化するには、その国のユーザーといかに真のつながりを持てるかを考えましょう。
その土地の母国語を蔑ろにすることは、ユーザーに悪い印象を与え、購買意欲を削いでしまう恐れがあります。ユーザーが違和感なくコンテンツを理解できるようにすることが、マーケティングを成功させる鍵となります。
したがって、ただその言語を扱うだけでなく、文法的に正しく、自然な表現を使うことが重要です。文法や構造や言語によって大きく異なり、特に日本語のような比較的独立した言語を翻訳する場合は、大抵、直訳するだけではうまくいきません。
また、他の国での新規顧客獲得に向けて、文化的に無関係なコンテンツや不快感を与える表現は変更するようにしましょう。
2. ローカライゼーションキットを作成する
ローカライゼーションキットという言葉は、日本ではあまり定着していませんが、ローカライゼーションの目標などの要点をすべて盛り込んだドキュメントを意味します。
ローカライゼーションキットの一部として、自社の個性(ブランドボイス)、ブランドカラー、コンテンツ制作の全体的な目標などに関する情報を具体的に示したスタイルガイドを作成しましょう。このスタイルは、マーケティングを行う地域によって異なる可能性があります(むしろ異なっているのは当然のこと)。
ローカライゼーションキットには、以下のような項目が含まれます。
- 自社で使用している専門用語とそれの表現方法
- 着想を得るための、目標とするブランドや他社(業界問わず)と自社の比較
- 同じ分野の企業の優れた点と懸念点
このキットは特に翻訳者にとって有用な資料となり、またチーム全員が1つのビジョンを持ち、団結してプロジェクトを進行するのにも役立ちます。
3. カスタマージャーニーを分析する
ローカライゼーションを最大限効率化するには、既存のカスタマージャーニーをじっくりと分析する必要があります。
既存のカスタマージャーニーの中で、新たな市場に持ち込める要素は何か。そのような要素があるのか。そしてこれを土台に、新たに構築していきます。
例えば、その国の消費習慣が異なれば、それに応じて異なるプロモーションを展開する方が良いかもしれません。
また、日本でのカスタマージャーニーでこれまでに直面した問題を書き出し、新たな市場でも発生する可能性があるかどうかも考えましょう。同じ懸念が予想される場合には、過去の経験を活かしてカスタマージャーニーを最適化し、事業拡大に備えましょう。
既存のカスタマージャーニーの各工程についても、ローカライゼーションが求められます。場合によっては、いくつかの工程はそのまま移行できるかもしれませんが、いずれにせよ各ステップごとに分析と考察を重ねましょう。
もちろん、今後また別の国に事業を展開する際には、この工程をイチから繰り返します。
4. ターゲットとする地域を選ぶ
単に好きな国を選んで、事業を拡大すればいいというわけではありません。戦略的な展開が必要です。そのためには、自社製品への需要が見込める国を見極めて、選択することが大切です。
また、その地域にはどのようなルールがあるのか、ビジネスに関するさまざまな法律や規制も調べましょう。例えば、欧州連合(EU)加盟国に事業を拡大する場合、企業が顧客データをどのように収集するかを定めたGDPR(EU一般データ保護規則)に準拠しなければなりません。これに違反すれば、莫大な制裁金を科せられる可能性があります。
また、分野ごとにマーケティングのルールがあり、知らず知らずのうちに法律を破ってしまわないように注意する必要があります。
ターゲットとする地域の選定にあたって考慮すべき最後の要素は、費用対効果です。市場分析を行い、必要性と利益の可能性を検討した上で、最終決定を下してください。
5. 予算を策定する
収益を計算するには、経費の算出が必要です。他国でマーケティングを行うには、どのくらい費用がかかるかを予測しましょう。
これを、ローカライゼーションの全体予算に組み込む必要があります。サービスを展開する地域ごとに、広告予算を確保してください。
6. 需要を把握する
たとえ現時点では海外進出を考えていなくても、将来的に必要になるであろうローカライゼーションを予測しておくことは重要です。例えば、ウェブサイトのデザインを決定する段階で、ローカライゼーションを考慮しておくのは賢い判断です。
ローカライゼーションを最初から念頭に置いておけば、将来的に計画や実施が楽になります。例えば、さまざまな言語にコンテンツを翻訳したとき、サイトがどのように見えるか想定することをお勧めします。そうすれば、後々ローカライゼーションが必要になった際に、サイトをゼロから構築する必要がなくなります。
ローカライゼーションを行うのが何年も先のことになったとしても、こうした将来の可能性を考慮したデザインを制作してもらうように、ウェブデザイナーに相談してみてください。事業拡大の準備が整った際に、市場投入までの時間を短縮することができます。
7. チームでの役割と責任を明確にする
ローカライゼーションを計画するには、WordPressのユーザー役割のように、誰が何を担当するのかを把握しておくことも大切です。チームメンバーそれぞれに明確な役割と責任を割り当てましょう。
これによって、業務が重複したり、他のメンバーの作業を妨げたりするのを回避でき、全員が報告先を把握できます。各チームメンバーとそれぞれの仕事、およびメンバーの関係性を示すマスターリストを作成しましょう。無駄な議論や誤解を防ぐことができます。
8. オーディエンスを理解する
潜在顧客を分析し、どのようなユーザー層なのか、何を求めていて、どのようなマーケティングが効果的なのか、よく調査しましょう。
例えば、どのようなメディアを好むか─テレビを見るユーザーが多いのか、それともSNSを利用するのが一般的なのか。潜在顧客の関心や行動を理解することで、マーケティングを展開するのに適したプラットフォームを判断することができます。
また、潜在顧客とのコミュニケーションの取り方も重要です。その国の政治的性質とともに価値観を把握し、マーケティングコンテンツに反映しましょう。
必要なデータをすべて入手したら、ペルソナでモデル化し、マーケティングキャンペーンの対象となるユーザー層を絞り込み、見込み顧客の体験をパーソナライズできるようにしておきましょう。
9. 使用ツールおよびプラットフォームを選ぶ
海外進出にあたって必要になるソフトウェアやツールも洗い出しておきましょう。
例えば、以下のようなものが挙げられます。
- SNS管理ツール
- サーバー(WordPress専用マネージドホスティングなど)
- メールサービス
- MyKinstaのようなコントロールパネル
- APM
- 現地に対応した広告プラットフォーム
10. 現地のリソースを活用する
その国のユーザー向けにコンテンツを翻訳する場合、現地のことを理解している翻訳者を起用しましょう。その国の文化や人々の価値観を理解し、助言を与えてくれるような翻訳者が適任です。
また、その言語の文法規則を熟知しているネイティブスピーカーであることも重要です。
11. 文化的に適切なコンテンツを作成する
提供するコンテンツは、ローカライゼーションによって、ターゲットとなる地域に適した固有のものであるべきです。法定休日や独立記念日など、その国の祝日に合わせたコンテンツをSNS上で発信しましょう。
コンテンツには、その国の歴史や誇りも盛り込み、オーディエンスとその国の文化を理解していることをアピールするのが効果的です。
12. ローカライゼーションの成果を測定する
最後に、ローカライゼーションを開始したら、忘れずにその成果を追跡・測定し、進行状況を把握しましょう。
常に分析と考察を行うことで、良い点と懸念点を理解し、目標に達していなければ、それに応じて必要な戦略を講じることができます。
まとめ
ローカライゼーションは、事業の海外進出に欠かせません。今回ご紹介したヒントを踏まえて、ローカライゼーションを計画すれば、きっと新たな市場への参入を成功させることができるはずです。
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